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サプリのメタアナリシス

第3項  サプリ

サプリのメタアナリシス(「食と健康」の最重要の論文)の結果をメタ・チャートで見ると、統一感のないはっきりしない色となっています。これはつまり、サプリによる健康効果ははっきりしないことを意味します。

 

サプリの販売増と健康効果への疑問

サプリとは、英語のサプリメント(supplement)を短くした言葉であり、「足りない栄養を補うもの」という意味で使われます。ここでは、錠剤のものと食品に添加したものをあわせてサプリと呼びます。毎日の生活の中では、サプリを目にする機会が多くあります。テレビや新聞などでは多くのサプリが宣伝され、コンビニやドラッグストアでも目につく場所に多くの商品がならんでいます。

fig15

図15は、ここ数年のサプリの国内販売額です。銀行にお金を預けても利子は1%もつかないこの時代に、サプリの販売額は平均して毎年8%という大きな成長率で伸びています。これは近年の健康意識の高まりのなかで、ふだんの野菜不足をサプリで補おうとする意識の表われでしょう。ここで人々の考えの基礎となっているのは、「野菜や果物の栄養成分は、サプリで代用することが可能だ」というものです。しかし、はたして本当にそうなのでしょうか。

メタ・チャートの「精製品・サプリメント」のうち「ビタミン・ミネラルサプリ」の列をみてみると、先天性異常など一部ではきわだつ青がみられるものの、それ以外はすべて、統一感のないはっきりしない色となっています。特に多いのが「0」を示す白色のマスです。つまり「サプリには疾患を予防する効果がないことがわかった」という結果が多いのです。

1960年ごろにサプリが市民権を得て今のように一般化するまでの半世紀の間、「食品の栄養成分をサプリで代用できるのか」という疑問に対する明確な答えはこれまでになく、現在も研究がつづけられています。食と疾患予防の全メタアナリシスのうち、「ビタミン・ミネラル」のサプリについての論文数は、全カテゴリーのなかで最多となっています。このことからも、研究者らがこの問題に強い関心をもっていることがわかります。その研究結果として現在までにわかったのが、数多くならんでいる「0」なのです。

なお、サプリでとる食物繊維やフィトケミカルついては、副作用に関する論文が1報あるのみです。つまり、これらのサプリの健康効果は、確かなことがまったくわかっていない状況なのです。

 

3-1項 サプリと大腸がん

表をみると、抗酸化サプリについては、すべての論文で予防効果はないか、または不明という結果となっています。一方、マルチビタミンとカルシウムサプリの論文では大腸がんの予防効果がみられます。マルチビタミンについて調べた論文では、12のコホート研究を統合し、60万人以上のデータを分析した結果、マルチビタミンをとる人は大腸がんになるリスクが12%低いことが示されています。コホート研究とは、疫学研究のうち、通常10年前後、長いものでは20年、30年と長期にわたって調べた研究です。より精度の高い結果が得られます。

表3-1 サプリと大腸がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 抗酸化サプリ※1
抗酸化サプリ 結腸直腸がん ? 2013 24620628
抗酸化サプリ 結腸直腸がん 0 2011 20412095
ビタミンEサプリ 結腸直腸がん ? 2010 20363687
抗酸化サプリ 結腸直腸腺腫 ? 2006 16842454
■ ビタミンサプリ
マルチビタミンサプリ 結腸がん 2010 20820901
■ ミネラルサプリ
カルシウムサプリ 結腸直腸がん 2014 24623471
カルシウムサプリ 結腸直腸がん ? 2011 20685491

説明リンク → (サプリの冒頭説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         抗酸化サプリとは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のサプリのこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。

 

3-2項 サプリと前立腺がん

表をみると、2007年の論文ではビタミンEサプリをとる人は前立腺がんになるリスクが低いことが示されていますが、2010年の論文ではビタミンEも含めた抗酸化サプリには予防効果がないという結果となっています。発表年の新しい論文によって「効果なし」となっていることから、現時点では抗酸化サプリに前立腺がんを予防する効果は期待できません。

表3-2 サプリと前立腺がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 抗酸化サプリ※1
抗酸化サプリ 前立腺がん 0 2010 20661819
ビタミンEサプリ 前立腺がん 2007 18059122
■ ビタミンサプリ
ビタミンDサプリ 前立腺がん ?+ 2011 21203822

説明リンク → (サプリの冒頭説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         抗酸化サプリとは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のサプリのこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。

 

3-3項 サプリと乳がん

表をみると、マルチビタミンサプリによる乳がんの予防効果は不明です。そのため、現時点ではサプリと乳がんについてはっきりしたことはなにもわかっていない状況です。

表3-3 サプリと乳がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
マルチビタミンサプリ 乳がん ? 2011 21487086

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3-4項 サプリとその他のがん

表をみると、いくつかの論文ではサプリによるがん予防の効果が示されているものの、多くの論文では効果がないという結果となっています。なかにはがんのリスクを増加させるものまであります。特にβカロテンのサプリをとる人は肺がんになるリスクが高いという結果が2報の論文で報告されています。これではなにのためにサプリをとるのかわかりません。また、葉酸についてもがんになるリスクが高まる可能性が示されています。

表のうちいくつかの論文ではがんの予防効果が示されているものがあります。しかし、なかには「-」の結果を真に受けることができないものもあります。2011年の論文ではセレンによるがん予防の効果が示されていますが、これはセレンの摂取量がもともと少ない人でみられる効果であって、セレンが足りている人では逆にがんのリスクが増加する可能性があることが論文では指摘されています。また、カルシウムによる子宮体がんの予防効果は、たった2つの疫学研究を統合して得た結果であるため、今後の研究によってくつがえる可能性は大きいでしょう。

なお、サプリとその他のがんについてはメタアナリシスの数が多いため、サプリの種類ごとに論文をまとめて表をみやすくしています。

表3-4 サプリとその他のがんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 抗酸化サプリ※1
抗酸化サプリ 皮膚がん 0 2011 21846961
抗酸化サプリ がん 0 2010 19622597
抗酸化サプリ 胃腸のがん ? 2008 18677777
抗酸化サプリ がん 0 2008 18173999
抗酸化サプリ 胃腸のがん 0 2004 15464182
βカロテンサプリ がん ?+ 2011 21981610
βカロテンサプリ がん 0 2010 19876916
βカロテンサプリ 肺がん、胃がん + 2010 19876916
βカロテンサプリ 肺がん ? 2008 18689373
βカロテンサプリ 肺がん(喫煙者) + 2008 18429004
ビタミンEサプリ がん 0 2008 18173999
ビタミンEサプリ がん 0 2007 18059122
ビタミンEサプリ がん ? 2006 16808775
セレンサプリ※2 がん ? 2014 24683040
セレンサプリ 肺がん ? 2011 22073154
セレンサプリ がん – – 2011 22004275
■ ビタミンサプリ
ビタミンDサプリ がん 0 2014 24918818
葉酸サプリ すい臓がん ? 2013 23769243
葉酸サプリ※3 がん ?+ 2013 23352552
葉酸サプリ がん ?+ 2013 23338728
葉酸サプリ がん + 2012 22018948
妊娠中のマルチビタミン 子の白血病 2010 19839053
妊娠中のマルチビタミン 子の白血病 – – 2007 17314929
■ ミネラルサプリ
カルシウムサプリ がん ? 2013 23601861
カルシウムサプリ 子宮体がん – – 2008 18155758

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※1         抗酸化サプリとは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のサプリのこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。
※2         セレンは古くから毒性の強い元素として知られていたのですが、最近ではヒトに必須の微量栄養素であることがわかってきたそうです。現在は、セレンがもつ抗酸化作用により、がんの予防に効果があるかもしれないということで研究が進められています。しかし、体が必要とする量を超えると中毒を起こすらしく、サプリで摂取する場合は注意が必要だとの情報があります。[i]
※3         葉酸は、体内でDNAの原料をつくるために必要な栄養素です。体の正常な成長に必要である反面、とりすぎるとがんを促進する可能性があるとされています。この論文の著者は、葉酸サプリを投与する際はがんの発生に注意すべきだといっています。

 

3-5項 サプリと心臓疾患

表をみると、大部分の論文でサプリによる心臓疾患の予防効果はないことが示されています。ビタミンCとEのサプリについて調べた2004年の論文では、この表で唯一「効果あり」との結果となっていますが、抗酸化ビタミンサプリについて調べた2013年の論文では「効果なし」となっています。抗酸化ビタミンはビタミンCとEを含むものであるため、2004年の「効果あり」との結果は2013年にはくつがえされたことになります。メタアナリシスとは、基本的に発表年が新しいものほど多くのデータを統合できるものであるため、新しい論文からはより信頼性の高い結果を得ることができます。

効果がないだけならまだましです。カルシウムサプリについて調べた2報の論文では、心筋梗塞になるリスクが高くなる結果となっています。骨折予防のためにカルシウムのサプリをとる人がいますが、それにより心臓疾患のリスクが高くなるのでは、なんのためのサプリかわかりません。さらにいうとカルシウムをとることで骨折の予防ができるかも疑問です(Q&A「骨を丈夫にするにはカルシウムが必要?」を参照)。

表3-5 サプリと心臓疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 抗酸化サプリ※1
セレンサプリ※2 心臓血管疾患 0 2013 23440843
抗酸化ビタミンサプリ 心臓血管疾患 0 2013 23437244
セレンサプリ 冠動脈性心疾患 ? 2006 17023702
ビタミンC、Eサプリ 冠動脈性心疾患 – – 2004 15585762
■ ビタミンサプリ
ビタミンDサプリ、カルシウムサプリ 心臓血管疾患 0 2013 24035175
ビタミンサプリ 心臓血管疾患 0 2013 23335472
葉酸サプリ 心臓血管疾患 0 2012 22884409
ビタミンBサプリ 心臓血管疾患 0 2012 22652362
ビタミンDサプリ 心臓血管疾患 ? 2010 20194238
■ ミネラルサプリ
カルシウムサプリ 心筋梗塞 + 2011 21505219
カルシウムサプリ 心筋梗塞 + + 2010 20671013

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※1         抗酸化サプリとは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のサプリのこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。
※2         セレンはその抗酸化作用から、がん予防の研究が進められていますが、体が必要とする量を超えると中毒を起こすらしく、サプリで摂取する場合は注意が必要だとの情報があります。[ii]

 

3-6項 サプリと脳卒中

表をみると、抗酸化サプリには脳卒中の予防効果はないことがよくわかります。ビタミンサプリについては予防効果がある可能性はありますが、ビタミンBサプリについて調べた3報の論文をみると、「予防効果あり」という結果が出ているのは最も古い1報のみであり、新しい2報の論文でははっきりしていません。これはつまり、現在も効果ははっきりわかっていないということです。葉酸サプリについては、18の臨床試験を統合し、5万人分のデータを分析した結果、脳卒中になるリスクが7%減少することが示されています。

一方、カルシウムサプリについてみると、脳卒中のリスクが増加するという結果となっています。骨折の予防をするつもりでサプリをとり、その結果、脳卒中のリスクが増加するのでは、なんのためのサプリだかわかりません。

表3-6 サプリと脳卒中のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 抗酸化サプリ※1
抗酸化ビタミンサプリ 脳卒中 0 2013 23437244
ビタミンEサプリ 脳卒中 0 2011 21264448
ビタミンEサプリ 脳卒中 0 2010 21051774
■ ビタミンサプリ
ビタミンBサプリ 脳卒中 ?- 2013 24282609
ビタミンBサプリ 脳卒中 ? 2013 24049135
葉酸サプリ 脳卒中 2012 22884409
ビタミンBサプリ 脳卒中 2012 22652362
■ ミネラルサプリ
カルシウムサプリ 脳卒中 + 2011 21505219

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※1         抗酸化サプリとは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のサプリのこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。

 

3-7項 サプリとぜんそく

2013年の論文では、5報のコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、5万人ぶんのデータを分析した結果、妊娠中に葉酸サプリをとった場合、生まれた子がぜんそくになるか、またはぜん鳴を起こすようになるリスクは5%高いことが示されています。現時点では、葉酸サプリによってぜんそくを予防する効果は期待できないどころか、危険性があるかもしれません。

表3-7 サプリとぜんそくのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
妊娠中の葉酸サプリ 子のぜんそく、ぜん鳴※1 + 2013 24004895

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※1         ぜん鳴(ぜんめい)とは、ヒューヒューゼーゼーという音をともなった呼吸困難の状態であり、ぜんそくの主症状のことです。

 

3-8項 サプリと目の疾患

表をみると、マルチビタミンのサプリは加齢性白内障の予防に効果的であることが示されています。この論文では、3つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、3万人ぶんのデータを分析した結果、マルチビタミンをとる人は白内障になるリスクが34%低いことが示されています。ただ、分析したデータの規模は大きくないため、結果は今後変わる可能性があります。

マルチビタミン以外の論文では、サプリによる目の疾患の予防効果はないことが示されています。加齢黄斑変性についてはサプリによる効果はない一方で、食品からとるフィトケミカル(4-10項)や食品からのn-3脂肪酸(5-10項)では大きな予防効果が示されています。このように食品では予防効果があるのにサプリでは効果がないという事例は、多くのメタアナリシスで確認されています。

表3-8 サプリと目の疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
マルチビタミンサプリ 加齢性白内障 – – – 2014 24590236
抗酸化ビタミンサプリ※1 加齢性白内障 0 2012 22696344
ビタミンE、βカロテンサプリ 加齢黄斑変性 0 2012 22696317
ビタミンE、βカロテンサプリ 加齢黄斑変性 0 2008 18253971

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※1         抗酸化サプリとは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のサプリのこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。

 

3-9項 サプリと骨折

表をみると、2報の論文のどちらにおいてもサプリによる骨折予防の効果は不明となっています。

表3-9 サプリと骨折のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
フッ素 骨折 ? 2008 17701094
ビタミンDサプリ 骨折 ? 2007 17349055

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3-10項 サプリと感染症

表をみると、ビタミンCサプリに関する論文は4報あります。これらはみな同じ研究者によるものです。発表年が最も新しい2013年の論文では、24の臨床試験を統合し、1万人ぶんのデータを分析した結果、ビタミンCサプリによる風邪予防の効果はないことが示されています。この論文ではほかにも5つの臨床試験を統合し、マラソン選手6百人ぶんのデータを分析した結果も紹介されています。その結果は、ビタミンCサプリをとることで風邪をひくリスクが50%減少するというものでした。この論文で分析したデータの規模はまだ小さく、結果は今後変わる可能性はありますが、激しい運動をする人にはビタミンCサプリによる風邪予防の効果がありそうです。しかし運動選手のような場合でないかぎりは、ビタミンCサプリによる風邪予防の効果は期待できません。

表3-10 サプリと感染症のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミンサプリ
ビタミンDサプリ 風邪 0 2013 23815596
ビタミンCサプリ(200mg以上/日) 風邪 0 2013 23440782
ビタミンCサプリ(200mg以上/日) 風邪 0 2007 17636648
ビタミンCサプリ(200mg以上/日) 風邪 0 2004 15495002
ビタミンCサプリ(1000mg以上/日) 風邪 0 1997 9059230
■ ミネラルサプリ
亜鉛入りトローチ 風邪 ? 1997 9361579

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3-11項 サプリと先天性異常

表の中に出てくる対象疾患の一つに神経管欠損があります。これは妊娠初期におなかの胎児の脊髄と大脳がきちんと形成されない疾患で、麻痺や発達異常のほか妊娠中の死産や出生後の突然死の大きな原因となるものです。そして口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、生まれつき上の唇や上あごが裂けている状態のことで、およそ500人に1人の割合で発生しています。表をみると、妊娠中に葉酸サプリをとることで、生まれた子が先天性異常となるリスクが大きく減少することがわかります。このような研究結果があることから、現在では妊娠中の葉酸の摂取はひろく推奨されています。

表3-11 サプリと先天性異常のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
妊娠中の葉酸サプリ 子の神経管欠損 – – – 2012 21501455
妊娠中の葉酸サプリ 子の神経管欠損 – – – 2010 20927767
妊娠中のマルチビタミン※1 子の口唇口蓋裂 2008 18583393
妊娠中の葉酸入りサプリ 子の口唇口蓋裂 – – – 2007 17133404
妊娠前からのマルチビタミン※1 子の神経管欠損、心臓の異常、四肢欠損、口唇口蓋裂など – – – 2006 17022907

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※1         これらの論文で示されている効果は、マルチビタミン中に含まれる葉酸によるものと考えられています。

 

3-12項 サプリと死亡率

表をみると、抗酸化サプリについての論文では、すべて効果がないか、または死亡率が増加するという結果となっています。2012年の論文では、実に78もの臨床試験を統合し、30万人ぶんのデータを分析しています。これはデータの規模が大きな論文であり、結果の信頼性は高いといえます。臨床試験の調査期間は平均3年でした。この間に、抗酸化サプリをとっている人ととっていない人とで、原因のいかんにかかわらず死亡した人の割合を比較した結果、抗酸化サプリには死亡率を下げる効果はないことが示されています。(実際には死亡率が4%増加するという結果でしたが、これは小さな増加であるため「0」と評価しています。) 抗酸化サプリのうち、 特にβカロテンサプリについては注意したほうがよさそうです。

一方、ビタミンD3とマルチビタミンのサプリについては、臨床試験を統合した結果、どちらも死亡率が6%減少することが示されています。

表3-12 サプリと死亡率のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 抗酸化サプリ※1
βカロテンサプリ(1日の許容量以上) 死亡率 + 2013 24040282
抗酸化サプリ 死亡率 0 2012 22419320
ビタミンEサプリ 死亡率 0 2011 21235492
βカロテンサプリ 死亡率 + 2008 18677777
抗酸化サプリ 死亡率 0 2008 18425980
抗酸化サプリ 死亡率 0 2007 17327526
抗酸化サプリ 死亡率 + 2004 15464182
■ ビタミンサプリ
ビタミンD3サプリ 死亡率 2014 24414552
マルチビタミンサプリ 死亡率 2013 23255568

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※1         抗酸化サプリとは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のサプリのこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。

 

3-13項 サプリとその他の疾患

表には興味深い論文がいくつもあります。表の上から1番目と2番目の論文は歯に関するものです。ビタミンDサプリと虫歯について調べた2013年の論文では、24の臨床試験を統合し、3千人ぶんのデータを分析した結果、ビタミンDサプリによって虫歯になるリスクが約40%減少することが示されています。この論文のくわしい内容をみると、ビタミンDサプリのほか、紫外線照射の効果についても調べています。紫外線によって皮膚でビタミンDがつくられるためです。その結果、皮膚に赤みが出る程度の紫外線照射によって、虫歯になるリスクが64%減少するという大きな効果が示されています。虫歯予防のためにも日光を浴びるのがよいでしょう。

2012年の論文では、ビタミンCサプリによって歯牙酸蝕症(しがさんしょくしょう)となるリスクが増加することが示されています。歯牙酸蝕症とは虫歯ではなく、食品自体の酸によって歯がとけることです。

表の上から3番目と4番目の論文はどちらもビタミンDと自己免疫疾患について調べたものです。自己免疫疾患の一つである関節リウマチとは、本来はウイルスなどの外敵を攻撃して自分を守るべき免疫機能が自分の軟骨などを攻撃することで炎症を起こし、関節に痛みや変形をもたらすという自己免疫疾患です。2012年の論文では、3つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、22万人ぶんのデータを分析した結果、ビタミンDサプリをとる人は関節リウマチになるリスクが24%低いことが示されています。この論文では、ビタミンDをサプリではなく食品からとった場合についても調べており、その結果も同じくらいの予防効果となっています(4-14項)。2008年の論文の対象疾患である1型糖尿病も自己免疫疾患です。これは自分の免疫によってすい臓の細胞が破壊されてしまうものです。ビタミンDサプリはこの疾患に対しても予防効果があるという結果となっています。これらの自己免疫疾患は治療が難しいものが多く、なかには治療法がないものもあります。そのような疾患に対してビタミンDがこれだけ予防効果をもっているというのは、とても意義のある発見ではないかと思います。

表の最後にあるフィトケミカルとは、主に植物由来の微量物質のことで、色素成分として野菜などに広く含まれています。抗酸化作用などの体に有用な効果をもつことから、近年注目されています。植物性エストロゲンとは、女性の体内で女性ホルモン(エストロゲン)の働きをする植物由来の成分のことで、大豆に含まれるイソフラボンが代表的です。フィトケミカルをサプリでとる場合の健康効果を調べたメタアナリシスは、この論文が全メタアナリシスのうちで唯一のものです。しかもその内容が副作用に関するものであって効果に関するものでないというのは、それだけ健康効果についての研究が進んでいないということを表わしています。現段階では、積極的に野菜をたっぷり食べて、その中に豊富に含まれるフィトケミカルの恩恵をうけることをおすすめします。

表3-13 サプリとその他の疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミンサプリ
ビタミンDサプリ 虫歯 – – 2013 23356636
ビタミンCサプリ 歯牙酸蝕症 + 2012 22952601
ビタミンDサプリ 関節リウマチ – – 2012 22941259
ビタミンDサプリ 1型糖尿病 – – 2008 18339654
■ ミネラルサプリ
鉄分を補強した食品※1 貧血 – – – 2012 22760566
鉄サプリ 貧血 – – – 2012 22161444
■ 妊娠中のサプリ
妊娠中の葉酸サプリ 新生児仮死※2 ? 2013 23543547
妊娠中のマルチサプリ 周産期死亡・仮死※3 0 2012 23152228
妊娠中のマルチサプリ 新生児仮死 0 2012 21501455
妊娠中のビタミンサプリ 流産・死産 0 2011 21249660
妊娠中のビタミンサプリ 流産・死産 0 2005 15846697
■ フィトケミカルサプリ
植物性エストロゲン 副作用 0 2009 19786161

説明リンク → (サプリの冒頭説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         鉄分を補強した食品とは、主にシリアルのことです。
※2         新生児仮死とは、赤ちゃんが仮死状態で生まれてくることです。
※3         周産期死亡とは、妊娠22週以降の死産および出生後の赤ちゃんの死亡のことです。

 

3-14項 サプリの結論

たとえば疫学研究の結果、「βカロテンを多くとっている人は健康だ」ということがわかったとします。しかしこの結果から、βカロテンのサプリに同じ健康効果があるとはいえません。なぜならこの研究でわかったことは、「βカロテンを多くとることが健康によい」ではなく、「βカロテンを含む食品を多くとることが健康によい」であるからです。これは非常に勘違いしやすい点です。このような勘違いから多くの人がサプリに期待して利用していますが、この項で紹介した大部分の論文で示されているように、サプリには疾患予防の効果はほとんどありません。ただ、一部の論文では疾患予防の効果があるという確かな結果が得られているものはあります。妊娠中の葉酸サプリによって生まれた子が先天性異常をもつリスクが減少することや、鉄サプリによって貧血になるリスクが減少することです。

しかし、サプリによっては病気になるリスクが減らないどころか、逆に増えることが確認されているものもあります。βカロテンやカルシウムのサプリがそうです。人は健康になりたいと願ってこれらの栄養サプリをとりますが、それがかえってがんや心臓疾患になりやすくなり、結果として死亡率が増えるというのはとても重大な情報です。摂取にあたってはとりすぎに注意する必要があるでしょう。

 

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[i] 国立健康・栄養研究所ウェブサイトより。

[ii] 同上。

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