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脂質のメタアナリシス

第5項  脂質

脂質は、タンパク質、炭水化物とならぶ三大栄養素の一つです。脂質は貯蔵可能なエネルギー源となるほか、細胞の膜をつくったり細胞を正しく機能させるために必要です。三大栄養素というくらいなので、生きるためには必須の栄養素であり、これがなければ死んでしまいます。実際に人間の体内で合成することができない成分として必須脂肪酸という栄養素もあります。

このように脂質は人間にとって大事な栄養素なのですが、現代における食の問題とは、脂質の不足よりもむしろとりすぎによる健康被害です。「食の変化と病気の増加」でも述べているように、1960年代から現在までに国民一人が消費する脂質(動物性と植物性の両方)の量は実に4倍に増えています。それと同時期にがんなどの患者数が大きく増えていることには、なんらかの因果関係があると考えられます。そのことを支持する研究結果が、これから紹介する脂質と疾患リスクのメタアナリシスです。

メタアナリシスの結果を紹介するにあたり、まずは脂質の分類を説明したいのですが、こまかい話は結構、という人は、「n-3は善玉、n-6は悪玉」とだけ覚えておいて、脂質の構成成分の説明はとばしても大丈夫です。

fig17

脂質の構成成分

脂質のおおまかな分類を図17に表わしました。脂質の主成分は脂肪酸という炭素原子の鎖です。脂質の重量のうち90%以上の成分が脂肪酸です。有名な脂質にコレステロールがありますが、これは残りの10%に含まれます。私たちの暮らしに身近な脂質というと肉の脂と植物油がありますが、これら二つはまったく異なるものではなく、脂肪酸の配合がちがうだけです。脂肪酸の配合によって、固形であったり液状であったりするというちがいが生まれます。

 

脂質の大部分である脂肪酸は次の3種類にわかれます。

・飽和脂肪酸
・不飽和脂肪酸(一価)
・  〃   (多価)

飽和という意味は、炭素の鎖が水素で満たされているという意味なのですが、ここでは簡単に「固体に近い状態」と理解をしておけばよいでしょう。飽和脂肪酸は3つのうちで最も固体に近いものです。そのため飽和脂肪酸を多く含む脂質(牛肉の脂身など)は常温では固体であることが多いのです。一方、不飽和というのは、水素が部分的に減ることによって「液体に近い状態」となっているものをいいます。そのうち、水素が一組減る(水素2個で一組です)ものを一価といい、水素が二組以上減っているものを多価と呼んで、不飽和脂肪酸を二つに区別します。一価よりも多価のほうが、液体に近い状態です。

不飽和脂肪酸は、その性質からn-3、n-6、n-9という三つのグループに分類できます。これらは、体の中でエネルギー源になるとともに免疫や血管の状態を調節する強力な働きを担っています。このうち特に注目されているのが、体内の炎症反応をコントロールする働きです。がんをはじめ、心臓疾患、糖尿病、高血圧、肥満などでは、体内で起こっている慢性的な炎症がその背景にあるといわれています。さらにアルツハイマー病やうつ病、統合失調症などでも、脳や血液で弱い炎症があることが知られています。

こうした炎症を促進するのがn-6脂肪酸であり、逆に炎症を抑えるのがn-3脂肪酸です。車のアクセルとブレーキのようにたとえられることもあります。このためn-6は悪玉、n-3は善玉の脂肪酸と呼ばれることがあります。

なお、n-9の炎症に対する働きは中立的なものと考えられています。参考までにいうと、他の本などではn-3ではなくω-3のように、n(エヌ)のかわりにω(オメガ)が使われることがありますが、これは呼び方が異なるだけで同じものです。

 

5-1項 脂質と大腸がん

表をみると、脂質を多くとっても大腸がんへの影響はないという結果になっています。

表の一番下には、動物性脂肪を含む食品について調べた論文があります。これはつまり動物性食品を多くとることを調べていることになります。そのため、この論文の疾患リスクをみて「おや?」と疑問に思った人もいるでしょう。1‐1項では、肉を多くとる人は大腸がんになるリスクが高いことがはっきり示されていたのに、この論文では動物性脂肪を多くとっても大腸がんのリスクは変わらないという結果となっているからです。

考えられる理由は、動物性脂肪に含まれるものが、牛や豚の脂だけではなく乳製品や魚介の脂質もあるということです。あとの項で紹介しますが、乳製品や魚には大腸がんのリスクを減らす効果があるため、それらと肉の影響が相殺されていると考えられます。

表5-1 脂質と大腸がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
n-3脂肪酸※1 結腸直腸がん 0 2012 22906228
脂質 結腸直腸がん 0 2011 20697723
動物性脂肪 結腸直腸がん 0 2009 19261724

説明リンク → (脂質の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         n-3脂肪酸とはDHA、EPA、αリノレン酸のことです。体内で炎症を抑えるよい働きをすると考えられています。

 

5-2項 脂質と前立腺がん

表の論文はすべてαリノレン酸について調べたものです。αリノレン酸はn-3系の脂肪酸であり、人体では合成できない必須脂肪酸です。n-3脂肪酸は体内で炎症を抑えることから、さまざまな疾患を予防する効果が期待されています。

2010年の論文では、5つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、25万人ぶんのデータを分析した結果、αリノレン酸を含む食品を多くとる人は前立腺がんになるリスクが5%低いことが示されています。予防効果としては小さな効果です。

αリノレン酸を含む食品としては、100gあたりの含有量では植物油が最も多く、次いで肉、魚、野菜と続きます。このように多くの食品に含まれているため、αリノレン酸がよいからといって具体的になにを積極的に食べればいいかについては判然としません。

表5-2 脂質と前立腺がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
αリノレン酸 前立腺がん 2010 19921446
αリノレン酸 前立腺がん ? 2009 19321563
αリノレン酸 前立腺がん ? 2008 18951003

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5-3項 脂質と乳がん

表をみると、脂質の種類によって乳がんへの影響がちがっており、n-3脂肪酸を含む食品は乳がんの予防に効果的であることがわかります。

表の一番上の論文では、善玉と呼ばれるn-3脂肪酸と悪玉と呼ばれるn-6脂肪酸をとる比率について調べています。6つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、25万人ぶんのデータを分析した結果、n-6に対してn-3を多くとる人は乳がんになるリスクが10%低いことが示されています。代表的なn-3であるDHAとEPAは魚に多く含まれています。そしてn-6の代表であるリノール酸は植物油や肉に含まれています。

また2013年の論文では、17のコホート研究を統合し、53万人ぶんのデータを分析した結果、海産物からn-3脂肪酸をよくとる人は乳がんになるリスクが15%低いことが示されています。海産物に含まれるn-3脂肪酸とはDHAとEPAのことです。海産物といってもDHAとEPAを含むのは魚および魚の卵(いくら、かずのこ等)ぐらいのもので、貝類や海藻にはわずかしか含まれていません。例外として、のりには多量のEPAが含まれています。

多価不飽和脂肪酸について調べた2011年の論文では、13のコホート研究を統合し、100万人ぶんのデータを分析した結果、乳がんになるリスクが9%増加することが示されています。代表的な多価不飽和脂肪酸はn-6とn-3の脂肪酸です。このうち現代の私たちが多くとっているのはn-6脂肪酸です。これはリノール酸のことで、植物油や肉などに含まれています。n-6には炎症を促進する働きがあることから、近年増加しているうつ病などの神経疾患やアレルギー疾患の原因となっているのではないかと考えられています(Q&A「野菜中心生活で脂質の問題は解決できるの?」を参照)。

そのほか、説明が必要な論文としては、動物性脂肪に関するものがあります。5-1項でも述べましたが、動物性脂肪を含む食品には肉だけでなく魚や乳製品という比較的よい食品もあります。そのためこの論文の結果は、「赤肉や加工肉をとる人は乳がんのリスクが高い」という1-3項の結果とは異なっています。

表5-3 脂質と乳がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
   < n-3脂肪酸 >
脂肪酸のn-3/n-6比率 乳がん 2014 24548731
海産物のn-3脂肪酸 乳がん 2013 23814120
   < 脂質 >
脂質 乳がん(中国人) + 2014 24606455
多価不飽和脂肪酸 乳がん + 2011 21681848
動物性脂肪 乳がん 0 2010 20181297
飽和脂肪酸 乳がん + 2003 14583769
脂質 乳がん ?+ 2003 14583769
脂質 乳がん ? 1996 8538706
脂質 乳がん 0 1993 8353053

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5-4項 脂質とその他のがん

表をみると、脂質を多くとる人はがんになりやすいことがわかります。

この表のうち最も大きなデータを分析しているのは、表の一番上の2008年の論文です。13のコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、80万人ぶんのデータを分析した結果、脂質を多くとる人は腎細胞がん(腎臓がんの一種)になるリスクが30%高いことが示されています。

一方、オリーブオイルについてはがんの予防効果が示されています。オリーブオイルは植物油の中でも特にオレイン酸(n-9脂肪酸)が際立って多く含まれており、リノール酸(n-6脂肪酸)も非常に少ない油です。オリーブオイルにがんの予防効果がみられるのは、n-6脂肪酸が少ないためかもしれません。しかし、この効果はオリーブオイル中のビタミンやその他の成分による可能性もあり、くわしい理由はわかっていません。

また、オリーブオイルを多く消費する国では、野菜や果物、豆、ナッツ、魚をよくとる伝統的な食生活があります。これは地中海式食事と呼ばれるもので、オリーブオイルによるがんの予防効果はこの食生活によるものである可能性があります。地中海式食事については第12項でくわしく紹介しています。(第12項は書籍版 を参照) 書籍版はAmazonで→「本当に健康になる食」はこれだ! 2015年版

表5-4 脂質とその他のがんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
脂質 腎細胞がん + + 2008 19033572
脂質、飽和脂肪酸 子宮体がん + 2007 17572853
脂質 肺がん 0 2002 12376497
脂質、飽和脂肪酸 上皮性卵巣がん + 2001 11962260
脂質 胆のうがん + 2000 10752797
リノール酸 大腸、前立腺、乳がん ? 1998 9665108
■ 脂質(精製品)
オリーブオイル がん – – 2011 21801436
オリーブオイル 乳がん – – – 2011 21443483

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5-5項 脂質と心臓疾患

表をみると、n-3脂肪酸をよくとることと飽和脂肪酸を減らすことは心臓疾患の予防に効果的であることがわかります。n-3脂肪酸を多く含むのは魚です。つまり魚をよくとることで心臓疾患になりにくくなることとなります。また、飽和脂肪酸は肉類に多く含まれています。つまり肉類を減らすことで心臓疾患になりにくくなることになります。飽和脂肪酸は体内でかたまりやすい特徴をもっており、血液の粘性を増すことで動脈硬化の原因になると考えられています。

表の論文は飽和脂肪酸を減らすことで心臓疾患になるリスクが低くなるという結果については、これはつまり飽和脂肪酸を多くとる人は心臓疾患になるリスクが高いことを意味しているため、メタ・チャートでは結果を「+」と表わしています。

表の下部には、トランス脂肪酸について調べた論文が2報あります。工場でマーガリンやショートニングをつくる際に、その原料である植物油に水素を添加することで「固体に近い状態」にするのですが、そこに副産物として含まれるのがトランス脂肪酸です。マーガリンの重量のうち1~15%、ショートニングでは1~30%がトランス脂肪酸です。かなり幅がありますが、多いものではかなりの量が含まれていることになります。

海外ではトランス脂肪酸に有害性があるとして、成分表示を義務化したり使用を制限するなどの規制をかけている地域があります(日本では規制されていません)。このようにトランス脂肪酸の健康への影響が懸念されていますが、実際にはどの程度の影響があるのでしょうか。

表の論文をみると、トランス脂肪酸を1日に約6gとるごとに心臓疾患になるリスクが22%増加することが示されています。これは大きなリスク増加ですが、1日に6gのトランス脂肪酸をとるのは困難なことです。トランス脂肪酸を含む代表的な食品であるマーガリンを例に計算してみましょう。仮にマーガリンの1%がトランス脂肪酸だとすると、6gのトランス脂肪酸をとるには600gのマーガリンを食べる必要があります。そんな量はとても食べられません。

内閣府の食品安全委員会による報告書では、日本人の大多数がとっているトランス脂肪酸は少量なので、健康への影響は小さいとの見解を出しています[i]。そして、むしろ脂質のとりすぎに注意が必要だとしています。

表5-5 脂質と心臓疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
   < n-3脂肪酸 >
αリノレン酸 心臓血管疾患 2012 23076616
DHA、EPA 心不全※1 2012 22682084
DHA、EPA 心臓突然死 – – – 2011 21736820
αリノレン酸 致死性の心臓疾患 ?- 2004 15051847
   < その他の脂質 >
リノール酸 冠動脈性心疾患 2014 25161045
飽和脂肪酸を減らす 心臓血管疾患 2011 21735388
飽和脂肪酸を減らし

多価不飽和脂肪酸を増やす

冠動脈性心疾患 2010 20351774
飽和脂肪酸 冠動脈性心疾患 ?+ 2010 20071648
   < トランス脂肪酸 >
トランス脂肪酸(6g/日) 冠動脈性心疾患 + 2011 21427742
トランス脂肪酸(5g/日) 冠動脈性心疾患 + 2009 19424216
■ 脂質(精製品)
DHA、EPAのサプリ 冠動脈性心疾患 ?- 2014 24723079

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※1         心不全とは、心臓の機能が低下することによって、動悸や息切れ、疲労などの症状がでることです。

 

5-6項 脂質と脳卒中

表をみると、食品からとる脂質については、脳卒中の予防効果ははっきりしないものとなっています。

その一方で、オリーブオイルについて調べた2014年の論文では、4万人ぶんのコホート研究(高精度の疫学研究)のデータを分析した結果、オリーブオイルをよくとる人は脳卒中になるリスクが26%低いことが示されています。ただ、分析したデータの規模は大きくないため、結果は今後変わる可能性があります。

表5-6 脂質と脳卒中のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
DHA、EPA 脳卒中 ?- 2013 23179632
DHA、EPA 脳卒中 ?- 2012 23112118
飽和脂肪酸 脳卒中 ?- 2010 20071648
■ 脂質(精製品)
オリーブオイル 脳卒中 – – 2014 24775425
DHA、EPAのサプリ 脳卒中 0 2012 23112118

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5-7項 脂質と糖尿病

表の論文はどれもn-3脂肪酸について調べたものですが、興味深いのは表の下側の2つの結果です。DHAとEPAは主に魚に含まれていることから、この論文は魚をよく食べる人について調べていることになります。そのデータをアメリカとアジアにわけて分析したところ、アメリカの調査データでは糖尿病になるリスクが17%高いことが示された一方で、アジアでの調査データでは糖尿病のリスクが10%低いことが示されています。

これは魚の食べ方のちがいが影響している可能性があります。具体的にはアメリカでは魚をフライで食べることが多く、アジアでは焼き魚や刺身で食べることが多いというちがいです。フライの場合、揚げるときに使う植物油やラードを一緒に多くとることになりますが、これらの油には多量のn-6脂肪酸が含まれており、それがn-3脂肪酸のよい効果を打ち消してしまっている可能性があります。なおn-6とn-3が体に与える影響については、Q&A「野菜中心生活で脂質の問題は解決できるの?」で紹介しています。

表5-7 脂質と糖尿病(2型)のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
n-3脂肪酸 糖尿病 ?+ 2012 22857650
DHA、EPA 糖尿病 0 2012 22591895
DHA、EPA(アメリカ) 糖尿病 + 2012 22442397
DHA、EPA(アジア) 糖尿病 2012 22442397

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5-8項 脂質とアレルギー疾患

表の論文では、妊娠中、または生後の数か月の間にn-3またはn-6脂肪酸のサプリをとることで、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を予防することができるかどうかを調べていますが、効果はいまのところ不明です。

表5-8 脂質とアレルギー疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 脂質(精製品)
n-3、n-6脂肪酸のサプリ ぜんそく、

アトピー性皮膚炎

? 2009 19392990

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5-9項 脂質と精神・神経疾患

表の上側の論文では、n-3脂肪酸とALS(筋萎縮性側索硬化症)について調べています。ALSとは、全身の筋肉を支配する神経に異常が生じることで徐々にやせて筋力がなくなり、最後には人工呼吸器をつけなければならなくなるという重篤な疾患です。5つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、100万人ぶんのデータを分析した結果、n-3脂肪酸をよくとる人はALSになるリスクが34%低いことが示されています。

表の真ん中の論文では、n-3とn-6の脂肪酸について調べています。これらの脂肪酸はどちらもうつ病と関係があると考えられていることから、この論文ではその摂取量とうつ病などを原因とした自殺との関連を調べています。この論文の結果では、今のところその関係は不明です。

αリノレン酸について調べた論文では、パーキンソン病の予防効果が示されています。しかし、5-2項でも述べたように、αリノレン酸がよいからといってなにを食べればよいかについては判然としません。

表5-9 食品からの脂質と精神・神経疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
n-3脂肪酸※1 ALS – – – 2014 25023276
n-3、n-6脂肪酸 うつ病等による自殺 ? 2014 24812159
αリノレン酸 パーキンソン病 2014 24120951

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※1         n-3脂肪酸とはDHA、EPA、αリノレン酸のことです。体内で炎症を抑えるよい働きをすると考えられています。

 

5-10項 脂質と目の疾患

表の論文は、加齢黄斑変性について調べています。これは加齢にともなう網膜の障害によって目がみえなくなっていく疾患です。表の論文では、9つの疫学研究を統合した結果、食品からn-3脂肪酸を多くとる人は加齢黄斑変性になるリスクが低いことが示されています。n-3脂肪酸にはDHA、EPA、そしてαリノレン酸があります。特にDHAとEPAは魚に豊富に含まれています。

表5-10 食品からの脂質と目の疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
n-3脂肪酸 加齢黄斑変性 – – 2008 18541848

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5-11項 脂質と死亡率

飽和脂肪酸は肉やたまご、乳製品、植物油に多く含まれていますが、体内でかたまりやすく、血液の粘性を増し、動脈硬化の原因にもなるといわれています。その飽和脂肪酸を多くとる人はすべての死因を含めた死亡率が高くなるかどうかを調べたのが表の論文です。9つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、72万人ぶんのデータを分析した結果、飽和脂肪酸を多くとる人は死亡率が9%高いことが示されています。この論文で調べた飽和脂肪酸を含む食品とは、肉、加工肉、牛乳、チーズ、バターの5品目です。このうち品目別に死亡率を調べたところ、肉と加工肉では死亡率が高くなるのに対して、乳製品では死亡率は変わらないという結果となっていました。この結果からは、飽和脂肪酸を含む食品がすべて健康に悪いとはいえず、悪いのは肉や加工肉であると考えることができます。なお、死亡原因として多いのは心臓疾患、脳卒中とがんでした。

表5-11 食品からの脂質と死亡率のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 食品からの脂質
飽和脂肪酸 死亡率 + 2013 23865702

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5-12項 脂質の結論

肉のメタアナリシスの結果をみると、そのほとんどが多くの疾患リスクが増加するというものでした。それとくらべると脂質のメタアナリシスの結果は「0」や「?」という判定結果がいくつもみられ、誰がみても健康に悪いとはいいがたいものがあります。それでも、メタ・チャートをみてわかるように、全体的には赤色が多く、さまざまな疾患のリスクが増加することから、脂質はひかえめにとることが望ましい栄養素だといえます。しかし脂質の種類ごとにみると、健康への影響は大きく2種類にわかれます。脂質(種類にかかわらず)と飽和脂肪酸については疾患リスクが増加する結果が多く、DHAやEPAに代表されるn-3脂肪酸については疾患リスクが減少する結果が多いというものです。このためn-3脂肪酸はよい脂質だと思われます。しかし、n-3脂肪酸の量を多くとることよりもむしろ、もう一方の多価不飽和脂肪酸であるn-6脂肪酸(リノール酸)をとりすぎないことを合わせて考えることが重要だと思われます(Q&A「野菜中心生活で脂質の問題は解決できるの?」を参照)。

 

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[i] 内閣府 食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について」(平成24年3月8日)より

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