健康を実感する食生活はここから

食品からとる栄養のメタアナリシス

第4項  食品からとる栄養

食品からとる栄養についてのメタアナリシス(「食と健康」の最重要の論文)の結果をメタ・チャートで見ると、きれいに青色が並んでいることがわかります。これはつまり、野菜を多くとる人は、多くの病気になるリスクが低いことを意味します。かなりの健康効果が期待できることが一目でわかります。また果物についてもほとんどが青色です。

 

メタ・チャートの「精製品・サプリメント」の列をみると、全体的にさえない色がならんでおり、多くの論文でサプリの健康効果がないことが示されていることがわかります。それに対して、「食品からとる成分」のうち「ビタミン・ミネラル」をみると、気持ちがいいくらい鮮やかな青色がならんでいます。サプリからとるのにくらべて食品からとる栄養成分については、多くの疾患に対して予防効果が示されているのです。

さらに第6・第7の栄養素といわれている「食物繊維・フィトケミカル」の列も同じようにきれいに青色がならんでいます。フィトケミカルとは、ポリフェノールなどで知られる植物由来の微量成分のことで、抗酸化作用などが体にとって有用だと考えられています。

では、ビタミン等をサプリとしてではなく食品からとる場合はどうでしょうか。メタ・チャートの「食品からとる成分」の「ビタミン・ミネラル」の列をみると、気持ちがいいくらい鮮やかな青色を示しています。サプリからとるのにくらべて、食品からとる栄養成分については、疾患リスクの大きな減少効果が示されているのです。

さらに、第6・第7の栄養素といわれている「食物繊維・フィトケミカル」の列も同じように、きれいに青色がならんでいます。フィトケミカルとは植物由来の微量成分のことで、ポリフェノールやカロテノイドなどがあります。これらは食品の色素成分であり、抗酸化作用などの体によい働きが期待されて近年注目されています。

 

4-1項 食品からとる栄養と大腸がん

表をみると、食品からビタミンや食物繊維などをとることは大腸がんの予防に効果的であることがわかります。これはサプリとは非常に対照的な結果です。

表をみるうえで注意すべきことはビタミン等の摂取量の考え方です。表に葉酸と書いてあるとき、それは葉酸だけを多くとったのではなく、葉酸を含む食品を多くとったことを意味します。

表の論文を具体的にみてみましょう。ビタミンの表のうちで最も大きなデータを分析している葉酸について調べた論文(ID:20820900)では、13のコホート研究を統合し、73万人ぶんのデータを分析した結果、葉酸を含む食品をよくとる人は大腸がんになるリスクが8%低いことが示されています。

葉酸は、レバーを除くと野菜と豆に豊富に含まれていることから、野菜や豆を多く食べる人には大腸がんになる人が少なかったということになります。なおコホート研究とは、疫学研究のうち、通常10年前後、長いものでは20年、30年と長期にわたって調べた研究です。より精度の高い結果が得られます。

もう一つ具体例をみてみましょう。食品からのマグネシウムについて調べた論文が3報ありますが、これらのうちデータの規模が最も大きい論文(ID:23031849)では、8つのコホート研究を統合し、34万人ぶんのデータを分析しています。その結果、マグネシウムを含む食品をよくとる人は大腸がんになるリスクが11%低いことが示されています。

表Fをみると、マグネシウムを含む食品とは、海藻、豆、魚介、野菜、全粒穀物です。これらのうち魚介以外はすべて野菜類であることから、マグネシウムを多くとる人とは野菜類を多くとる人のことだと考えてよいでしょう。

表4-1 食品からとる栄養成分と大腸がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミン
ビタミンC 結腸直腸腺腫 2013 24064545
ビタミンD 結腸直腸がん 2011 21876081
葉酸 結腸直腸がん ?- 2011 21177150
ビタミンA, C, E 結腸がん ? 2011 20820901
葉酸 結腸がん 2011 20820900
ビタミンB6 結腸直腸がん – – 2010 20233826
ビタミンD 結腸直腸腺腫 ? 2008 18990737
葉酸 結腸直腸がん 2005 15499620
■ ミネラル
亜鉛 結腸直腸がん 2013 23568532
マグネシウム 結腸直腸がん 2013 23222473
マグネシウム 結腸直腸がん 2013 23031849
マグネシウム 結腸直腸がん 2012 22854408
カルシウム 結腸直腸がん 2004 15240785
カルシウム 結腸直腸新生物 ?- 1997 8899384
■ 食物繊維・フィトケミカル※1
食物繊維 結腸直腸腺腫 2014 24216326
フラボノイド 結腸直腸がん 0 2013 23467443
食物繊維 結腸直腸がん 2011 22074852
食物繊維 結腸直腸がん – – 2010 20407088
カロテノイド 結腸直腸がん 2007 17158857
食物繊維 男性の結腸直腸腺腫 2006 16469993
食物繊維 結腸直腸がん ?- 2005 16352792
食物繊維 結腸がん 1990 2157027

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。フラボノイド(カテキン、イソフラボンなど)、カロテノイド(リコピン、カロテンなど)などがあります。

 

4-2項 食品からとる栄養と前立腺がん

表のうちカルシウムについて調べた2005年の論文では、カルシウムを含む食品をよくとる人は前立腺がんになるリスクが39%高いことが示されています。

カルシウムを多く含む食品とは、そのまま食べる小魚類と乳製品、そして海藻ですが、この論文の調査データは8割がアメリカ、2割はヨーロッパという、小魚や海藻はほとんど食べない地域で得られたものです。したがって実質的にこの論文の結果が示しているのは、主に牛乳や乳製品の影響だと考えられます。事実、牛乳や乳製品を多くとる人は前立腺がんになるリスクが高いことがわかっています(8-2項を参照)。

表4-2 食品からとる栄養成分と前立腺がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
カルシウム 前立腺がん + + 2005 16333032
セレン 前立腺がん – – 2005 16184479

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

 

4-3項 食品からとる栄養と乳がん

表をみると、食品からビタミンDやカルシウム、食物繊維などをとることは乳がんの予防に効果的であることがわかります。

ぱっとみてわかりにくいのは葉酸についてです。表の4報のうち古い2報では結果が「0」だったものが、2014年の論文では「-」と「0」という結果となっています。これらの論文のうちでもっとも大きなデータを分析しているのは一番上の論文です。15のコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、183万人ぶんのデータを分析した結果、葉酸を含む食品をとっても乳がんを予防する効果はないことが示されています。これはデータの規模が大きな論文であり、結果の信頼性は高いといえます。つまり、食品から葉酸を多くとっても乳がんの予防効果は期待できません。

フィトケミカルに関しては特に多くの論文があります。フィトケミカルとは植物に含まれる色素成分のことで、抗酸化作用などの体によい働きが期待され、近年注目されています。特にイソフラボンは、体の中で女性ホルモン(エストロゲン)のような働きをすると考えられており、それが乳がんの予防に役立っているのかもしれません。イソフラボンは豆類に多く含まれています。

表4-3 食品からとる栄養成分と乳がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミン
葉酸 乳がん 0 2014 24716978
葉酸 乳がん 2014 24667649
ビタミンD 乳がん ?- 2014 24714744
ビタミンD 乳がん 2012 22872547
ビタミンD 乳がん 2010 19851861
ビタミンD 乳がん 2008 18590821
葉酸 乳がん 0 2007 17202114
葉酸 乳がん 0 2006 17105984
■ 抗酸化ビタミン※1
ビタミンA、C、E 乳がん 0 2011 21761132
ビタミンC、βカロテン 乳がん 2000 10738129
■ ミネラル
カルシウム 乳がん 2012 22872547
カルシウム 乳がん 2010 19851861
■ 食物繊維・フィトケミカル※2
イソフラボン 乳がん(アジア人) 2013 23353619
フラボノイド 乳がん ? 2013 23349849
カロテノイド 乳がん 2012 22760559
カロテノイド 乳がん 2012 21901390
食物繊維 乳がん 2012 22234738
イソフラボン 乳がん 2011 21113655
食物繊維 乳がん 2011 21775566
イソフラボン 乳がん 2006 17330506

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         抗酸化ビタミンとは、ビタミンのうちで抗酸化作用のある成分のこと。ビタミンA、C、Eとβカロテンがある。
※2         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。フラボノイド(カテキン、イソフラボンなど)、カロテノイド(リコピン、カロテンなど)などがあります。

 

4-4項 食品からとる栄養とその他のがん

表をみると、食品からビタミンや食物繊維などをとることは多くのがんの予防に効果的であることがわかります。これはサプリとは非常に対照的です。表の一番上の論文では最も大きな規模のデータを分析しています。ビタミンCについては、32の疫学研究を統合し、73万人ぶんのデータを分析した結果、ビタミンCを含む食品をよくとる人は胃がんになるリスクが低いことが示されています。なお、これらの栄養素を多く含む食品とは、野菜や果物、海藻、全粒穀物などの野菜類です。(野菜類の説明はこちら

表4-4 食品からとる栄養成分とその他のがんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 抗酸化ビタミン類※1
ビタミンC、E、βカロテン 胃がん – – 2014 24510802
βカロテン 食道がん – – 2013 23679292
ビタミンA(サプリを含む) 子宮頸がん – – 2012 22005522
ビタミンC、E、βカロテン 子宮頸部の腫瘍 – – 2011 21749626
セレン がん – – 2011 21563143
ビタミンC、E、βカロテン 子宮体がん 2009 19083131
ビタミンC、E、βカロテン 食道腺がん – – 2007 17581269
ビタミンC、E 肺がん 2006 16152626
セレン 肺がん ? 2004 15159309
βカロテン 卵巣がん 2001 11695227
■ 葉酸
葉酸(100μg/日)※2 肺がん 0 2014 24713625
葉酸 胆のうがん 0 2014 24328495
葉酸 食道がん、すい臓がん – – 2014 24224911
葉酸 卵巣がん ? 2013 24129496
葉酸(100μg/日)※2 すい臓がん 2013 23769243
葉酸 肺がん 2013 23673118
葉酸 すい臓がん ? 2011 22034634
葉酸 がん数種 – – 2006 17030196
■ ミネラル
亜鉛 消化管がん 2014 24148607
■ 食物繊維・フィトケミカル※3
フラボノイド 喫煙に関係するがん 2013 24069431
食物繊維 食道腺がん – – 2013 23815145
食物繊維 胃がん – – 2013 23567349
カロテノイド 子宮頸がん – – 2012 22005522
フラボノイド 肺がん – – 2009 19351659
カロテノイド 肺がん 2008 18689373
食物繊維 子宮体がん 2007 18065593

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         抗酸化ビタミン類とは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。
※2         100μgの葉酸とは約100gの野菜を食べることでとれる量です。
※3         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。フラボノイド(カテキン、イソフラボンなど)、カロテノイド(リコピン、カロテンなど)などがあります。

 

4-5項 食品からとる栄養と心臓疾患

表をみると、食品からビタミンや食物繊維などをとることは心臓疾患の予防に効果的であることがわかります。これはサプリとは非常に対照的です。なお、これらの栄養素を多く含む食品とは野菜や果物、海藻、全粒穀物などの野菜類です。(野菜類の説明はこちら

この表のうち最も大きなデータを分析しているのは食物繊維について調べた2013年の論文です。12のコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、109万人ぶんのデータを分析した結果、1日に7gの食物繊維をとることで、心臓疾患になるリスクが9%低くなるという効果が示されています。7gの食物繊維というと、野菜なら150g~200gくらいの量です。

表4-5 食品からとる栄養成分と心臓疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミン
ビタミンE 冠動脈性心疾患 – – 2004 15585762
■ ミネラル
冠動脈性心疾患 2014 24401818
マグネシウム 虚血性心疾患 – – 2013 23719551
マグネシウム 心臓血管疾患 2013 23520480
カリウム 心臓血管疾患 – – 2011 21371638
■ 食物繊維・フィトケミカル※1
フラボノイド 心臓血管疾患 2014 23953879
食物繊維(7g/日) 冠動脈性心疾患 2013 24355537
カロテノイド 冠動脈性心疾患 2004 15585762
食物繊維(10g/日) 冠動脈性心疾患 2004 14980987
フラボノール 冠動脈疾患による死亡率 – – 2003 12879084

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。フラボノイド(カテキン、イソフラボンなど)、カロテノイド(リコピン、カロテンなど)などがあります。

 

4-6項 食品からとる栄養と脳卒中

表をみると、食品からミネラルや食物繊維などをとることは脳卒中の予防に効果的であることがわかります。これはサプリとは非常に対照的です。なお、これらの栄養素を多く含む食品とは、野菜や果物、海藻、全粒穀物などの野菜類です。(野菜類の説明はこちら

表4-6 食品からとる栄養成分と脳卒中のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミン
ビタミンC 脳卒中 2013 24284213
■ ミネラル
カリウム 脳卒中 – – 2013 23558164
カルシウム 脳卒中 2013 23553167
マグネシウム 脳梗塞 2012 22205313
カリウム 脳卒中 2011 21799170
カリウム 脳卒中 – – 2011 21371638
■ 食物繊維・フィトケミカル※1
フラボノール 脳卒中 2014 24342529
食物繊維 脳卒中 2013 23539529
食物繊維 脳卒中 2013 23430035
食物繊維 脳卒中 2013 23073261
フラボノール 脳卒中 – – 2010 20089788

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。

 

4-7項 食品からとる栄養と糖尿病

表をみると、食品からミネラルや食物繊維などをとることは糖尿病の予防に効果的であることがわかります。これはサプリとは非常に対照的です。なお、これらの栄養素を多く含む食品とは野菜や果物、海藻、全粒穀物などの野菜類です。(野菜類の説明はこちら) この表のうち最も大きなデータを分析しているのは、マグネシウムについて調べた2011年の論文です。13のコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、54万人ぶんのデータを分析した結果、マグネシウムを含む食品をよくとる人は糖尿病になるリスクが22%低いことが示されています。

表4-7 食品からとる栄養成分と糖尿病(2型)のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミン
抗酸化ビタミン類※1 糖尿病 2007 17984654
■ ミネラル
糖尿病 ?+ 2013 23046549
カルシウム 糖尿病 2012 22318650
マグネシウム 糖尿病 – – 2011 21868780
マグネシウム(100mg/日) 糖尿病 2007 17645588
マグネシウム 糖尿病 – – 2007 17502538
■ 食物繊維・フィトケミカル※2
食物繊維 糖尿病 2014 24389767
カフェイン 糖尿病 – – 2014 24150256
フラボノイド 糖尿病 2014 23591151
穀物の繊維※3 糖尿病 – – – 2007 17502538

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         抗酸化ビタミン類とは、ビタミン・ミネラルのうちで抗酸化作用のある成分のこと。ビタミンA、C、E、βカロテンとセレンの5種。
※2         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。
※3         この論文では、穀物以外に野菜と果物からの食物繊維についても調べていますが、それらの予防効果ははっきりしないものでした。穀物は主食であり、毎日多く食べることから、これほど大きな予防効果があるのでしょう。食物繊維を含む穀物としては、お米なら玄米、小麦なら全粒粉が代表的です。

 

4-8項 食品からとる栄養とぜんそく

表の一番上の論文では、子のぜん鳴(ぜんめい)について調べています。ぜん鳴とは、ヒューヒューゼーゼーという音をともなった呼吸困難の状態であり、ぜんそくの主症状のことです。この論文では、4つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、5千人ぶんのデータを分析した結果、妊娠中にビタミンDを含む食品をよくとる人は、生まれた子供が成長の過程でぜん鳴を起こすようになるリスクが44%低いことが示されています。また、ビタミンEを含む食品の場合は32%のリスク減少が示されています。分析したデータの規模は小さいですが、その結果は大きな予防効果を示唆するものとなっています。

ビタミンDを多く含む食品といえば魚です。たとえば1日の目安量[i]である5μgをとるためには、いわしならたった10g食べればよいぐらいビタミンDが豊富です。ビタミンDを含む食品としてはきのこが有名ですが、きくらげ以外はビタミンDの含有量は少なく、しめじを1パック(約100g)全部食べても、とれるのは一日に必要な量の7割程度です。

参考までに、日光をあびてビタミンDを得るための時間についての論文[ii]を紹介します。 それによると、顔と手の皮膚に日光をあび、1日ぶんのビタミンDを合成するために必要なおよその時間(冬季)は、沖縄で10分、関東で20分、北海道では70分だそうです。栄養をとるつもりで、積極的に日光に当たるのがよいのではないでしょうか。

ぜんそくについて調べた2009年の論文では、9つの疫学研究を統合した結果、食事からとるビタミンCが少ない人は、ぜんそくになるリスクが高いことが示されています。ビタミンCは野菜に多く含まれているので、野菜をよくとる人ではぜんそくになる確率が小さくなるという結果です。

厚生労働省が示している1日の推奨量は100mgです。一般的な野菜では、白菜(ゆで)やブロッコリー(ゆで)などには100gあたり50mgほどのビタミンCが含まれています。果物にも含まれていますが、野菜ほどは多くありません。なお、手軽なビタミンCの供給源としては、オレンジジュースとグレープフルーツジュースがあります。どちらも100mlあたり50mgほどのビタミンCが含まれています。

表4-8 食品からとる栄養成分とぜんそくのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
妊娠中のビタミンD、E 子のぜん鳴※1 – – 2011 21185068
ビタミンC ぜんそく 2009 19406861
抗酸化ビタミン ぜんそく ? 2008 18410255

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         ぜん鳴(ぜんめい)とは、ヒューヒューゼーゼーという音をともなった呼吸困難の状態であり、ぜんそくの主症状のことです。

 

4-9項 食品からとる栄養と精神・神経疾患

表をみると、食品からビタミンなどをとることは精神・神経疾患の予防に効果的であることがわかります。

表の一番上の論文では、患者数の増加で大きな問題となっているうつ病について調べています。ビタミンDについて調べた2013年の論文では、3つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合した結果、ビタミンDが不足している人はうつ病になるリスクが非常に高いことが示されています。これはビタミンDをしっかりとることでうつ病を予防できる可能性を示した重要な結果です。

ビタミンDを多く含む食品といえば魚です。また、4-8項でも述べましたが、魚をあまり食べない場合は、積極的に日光にあたるのがよいでしょう。東京に住んでいるなら、顔と手に20分ほど日をあびることで一日ぶんのビタミンDが皮膚で合成されます。

別の興味深い論文として、カロテノイドについて調べた論文があります。カロテノイドとは、フィトケミカルという植物の微量成分の一種です。この論文では、カロテノイドによるALS(筋萎縮性側索硬化症)の予防効果を調べています。ALSとは、全身の筋肉を支配する神経に異常が生じることで、徐々にやせて筋力がなくなり、最後には人工呼吸器をつけなければならなくなるという重篤な疾患です。この論文では、5つのコホート研究を統合し、105万人ぶんのデータを分析した結果、カロテノイドを含む食品をよくとる人はALSになるリスクが25%低いことが示されています。

表の一番下の論文ではカフェインについて調べています。カフェインは植物由来の微量物質であり、フィトケミカルの仲間です。この論文では、9つのコホート研究を統合し、78万人ぶんのデータを分析した結果、カフェインを多くとる人はパーキンソン病になるリスクが33%低いことが示されています。

ただカフェインを含むものなら何でもよいのかというと、そうでもなさそうです。この論文ではカフェインを含む飲料ごとにわけて調べたところ、コーヒーではリスク減少効果がみられましたが、紅茶、炭酸飲料(コーラなど)、ノンカフェインのコーヒーではリスク減少効果はみられませんでした。

この論文はカフェインについて調べているとはいえ、現段階では予防効果の原因は純粋にカフェインにあるのか、またはコーヒーに含まれるポリフェノールなどの成分によるものかははっきりしない状況です。

表4-9 食品からとる栄養成分と精神・神経疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ ビタミン
ビタミンD不足 うつ病 + + + 2013 23377209
ビタミンC、E、βカロテン アルツハイマー病 2012 22543848
ビタミンE パーキンソン病 2005 15907740
■ フィトケミカル※1
カロテノイド パーキンソン病 ? 2014 24356061
カロテノイド ALS – – 2013 23362045
カフェイン(コーヒー) パーキンソン病 – – – 2012 22505763

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。

 

4-10項 食品からとる栄養と目の疾患

表をみると、食品からフィトケミカルをとることは白内障と加齢黄斑変性という目の疾患の予防に効果的であることがわかります。調査項目であるルテインとゼアキサンチンとは、ほうれん草やブロッコリーなどに多く含まれるカロテノイドの一種です。

2報のうちより大きなデータを分析しているのは2012年の論文です。6つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、12万人ぶんのデータを分析した結果、カロテノイドを含む食品をとる人は加齢黄斑変性になるリスクが26%低いことが示されています。カロテノイドはサプリとしても販売されていますが、サプリについて調べたメタアナリシスはないため、サプリによって同様の効果があるかどうかは現時点では不明です。

表4-10 食品からとる栄養成分と目の疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ フィトケミカル※1
ルテイン+ゼアキサンチン 加齢性白内障(核性) – – 2014 24150707
ルテイン+ゼアキサンチン 加齢黄斑変性(後期) – – 2012 21899805

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         フィトケミカルとは、植物に広く含まれ、数千種類あるといわれる微量物質の総称。色素の成分であり抗酸化作用などの働きがあります。

 

4-11項 食品からとる栄養と骨折

表の一番上にある2009年の論文では脊椎の骨折について調べています。脊椎は簡単にいうと背骨のことであり、首から腰までをさします。特に高齢者のしりもちなどによって背中から腰にかけての低い位置での骨折が起こっています。骨粗鬆症の増加とともに、これらの骨折も近年増加しているといわれています。この論文では、日本で行われた2つの疫学研究を統合し、8万人ぶんのデータを分析しています。その結果、ふつうの食事でカルシウムをとっている人にくらべて、カルシウムをとる量が少ない人ほど脊椎の骨折が起こるリスクが高いことが示されています。つまり、カルシウムは不足しないほうがよいということです。

しかし、カルシウムをよくとるほど骨折を予防できるかというと、そうではなさそうです。2007年の論文では7つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、17万人ぶんのデータを分析した結果、カルシウムを含む食品を多くとっても股関節の骨折を予防する効果はない(特に女性の場合)ことが示されています。この論文では、1日にとっているカルシウムの量が400mg、600mg、800mg、1000mg、それ以上、という5グループの人たちについて、股関節を骨折した件数を調べています。その結果、どの量であっても骨折リスクに変化はありませんでした。なお、日本人の平均的なカルシウム摂取量は、1日500mg程度です。

表4-11 食品からとる栄養成分と骨折のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
カルシウム不足 脊椎の骨折 + + 2009 18549509
カルシウム(サプリを含む) 股関節の骨折(女性) 0 2007 18065599
カルシウム(サプリを含む) 股関節の骨折(男性) ?- 2007 18065599
カルシウム 股関節の骨折(女性) 0 2004 15035690

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

 

4-12項 食品からとる栄養と先天性異常

論文の対象疾患である口唇口蓋裂とは、生まれつき上の唇や上あごが裂けている状態のことで、およそ500人に1人の割合で発生しています。2013年の論文では、7つの疫学研究を統合した結果、妊娠中に葉酸を含む食品をよくとる人は、生まれた子が口唇口蓋裂になるリスクが低いことが示されています。

表4-12 食品からとる栄養成分と先天性異常のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
妊娠中の葉酸 子の口唇口蓋裂 2013 23228693

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

 

4-13項 食品からとる栄養と死亡率

表の論文では、7つのコホート研究を統合し、91万人ぶんのデータを分析した結果、食物繊維を含む食品をよくとる人はすべての死因を含めた死亡率が23%低いことが示されています。これはデータの規模が大きな論文であり、結果の信頼性は高いといえます。

表4-13 食品からとる栄養成分と死亡率のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
食物繊維 死亡率 – – 2014 25143474

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

 

4-14項 食品からとる栄養とその他の疾患

表の論文はどちらも自己免疫疾患についての論文です。自己免疫疾患とは、本来はウイルスなどの外敵を攻撃して自分を守るべき免疫機能が、自分の臓器などを攻撃して破壊してしまう病気です。関節リウマチとは、自分の免疫が体内の軟骨などを攻撃することで炎症を起こし、関節に痛みや変形をもたらすものです。2012年の論文では、3つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、22万人ぶんのデータを分析した結果、ビタミンDを含む食品(サプリを含む)をよくとる人は関節リウマチになるリスクが24%低いことが示されています。この論文では、ビタミンDをサプリのみでとった場合についても調べており、その結果も同じ程度の予防効果となっています(3-13項)。2013年の論文の対象疾患である1型糖尿病も自己免疫疾患です。これは自分の免疫によってすい臓の細胞が破壊されてしまうものです。ビタミンDを含む食品はこの疾患に対しても予防効果があるという結果となっています。これらの自己免疫疾患は治療が難しいものが多く、なかには治療法がないものもあります。そのような疾患に対してビタミンDを含む食品がこれだけ予防効果をもっているというのは、とても意義のある発見ではないかと思います。

表4-14 食品からとる栄養成分とその他の疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
ビタミンD 1型糖尿病 2013 24036529
ビタミンD(サプリを含む) 関節リウマチ – – 2012 22941259

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

 

4-15項 食品からとる栄養の結論

第3項ではサプリの本当の姿が浮きぼりになり、サプリによって健康になることに大きな期待はできないことが明らかになりました。その一方で第4項では、ビタミンなどの栄養素を食品からとることにさまざまな疾患の予防に効果的であることが明らかになりました。

メタアナリシスによって健康効果が確認されている栄養素とは、βカロテンやビタミンC、Eなどの抗酸化ビタミンに加え、マグネシウム、カリウムなどのミネラル、そして食物繊維にフィトケミカルです。表Fをみると、これらの栄養素のほとんどが野菜、果物、海藻、豆などに豊富に含まれていることがわかります。こうした野菜類をたくさん食べるほど、がんや脳卒中をはじめとする多くの疾患になりにくくなるということが、科学的な研究の結果として示されているのです。

その反対に、肉、油、炭水化物の多い食事では、βカロテン、ビタミンC、E、カリウム、マグネシウムが非常に少ない生活になることが、表Fをみるとわかります。ましてや食物繊維など足りるはずもありません。これでは多くの病気になりやすくなるばかりです。もしあなたがそのような食生活をしているなら、不足しがちな栄養素をサプリでとろうなんてことはどうか考えないでください。多くの病気を予防し、健康であるためには、たっぷりと野菜類を食べることが大事なのです。

 

[i] 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2010年版)」より。

[ii] 国立環境研究所「体内で必要とするビタミンD生成に要する日照時間の推定」より。PubMed ID: 24064725

PAGETOP
Copyright © 食・健康情報評価協会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.