メタアナリシスは「食と健康」の最重要の論文
実は、「食と健康」は非常に難しい研究分野です。そのため、論文の結果にはかなりのばらつきが見られます。メタアナリシスとは、そんなばらつきのある論文を統合することで、より正しい結論を導く分析方法のことです。したがって、メタアナリシスは「食と健康」の最重要の論文に位置づけられます。(論文ならなんでも正しい、というものではありません。)
メタアナリシスによって、はじめて「本当のところ、この食品はよいの?悪いの?」という問いへの答えがはっきりします。
逆に、ある食品についてメタアナリシスが発表されてない場合は、その健康効果は「はっきりしていない」といえます。
メタアナリシスが最重要の論文である理由について、詳しくは「メタ栄養学の考え方」へ。(こちらでは疫学研究の意味や重要性についても説明しています。)
メタアナリシスの結果の見方
メタアナリシスの結果は、メタ・チャートではカラーで示していますが、ウェブサイトの表では+と-でリスクの大きさを表現しています。+が多いものほどその食品によって病気になるリスクが大きいことを表わします(つまり健康に悪い)。逆に-が多いほどリスクが小さい(つまり健康にいい)となります(表A)。
くどい説明をしなくても、およそ一目でわかるのではないでしょうか。少々ややこしい点といえば、「?」と「0」のちがいです。「?」の意味は、調査はされて論文は発表されてはいるものの、分析の結果、その食品が疾患に対してよいのか悪いのかはわからなかったということです。
それに対して「0」とは、その食品を長い間食べても食べなくても、ある疾患になるリスクは同じという意味です。つまり、その食品は疾患に対して「影響がないことがわかった」ということであり、ある意味で安心して食べてもいい食品といえます。
ただし、すっかり安心すべきではありません。影響がないとはいえ、それを食べる量が多いほどそのぶんよいものを食べることができなくなるからです。このため、結果的にはよいとはいえないものとなります。
もっと詳しく「メタアナリシスとは?」
メタアナリシスとは、異なる結果を示すような複数の調査を一つに統合することによって、正しい結論を導き出す分析方法です。これは20世紀に入ってから使われはじめ、医学以外にも教育学や心理学などでも活用されています。
医学ではじめて使われたのは、1985年に発表された心臓疾患を予防する薬についての論文[i]だといわれています。その薬について、当時いくつもの臨床試験が行われていましたが、結果にばらつきがあり、効果があるのかどうかがはっきりしませんでした。しかし、それらのデータをメタアナリシスで分析したことによって、はじめて「効果がある」との確かな証拠が示されました。
医学においては、研究対象が生命という複雑なものであるため、得られる結果が一貫しないという問題がありますが、メタアナリシスはその問題を克服するための非常に有効な手段となることが示されたのです。もちろん完璧な分析手法とはいえませんが、現時点でメタアナリシスは研究論文の最高峰といえるものなのです。
当協会では、「食と疾患予防」に関するメタアナリシスのすべてを探し出し、それらをまとめたメタ・チャートを作成することで、全体的な観点で「食と疾患予防」について論じています。それによって、なにが健康によい食べものなのかを根本的に明らかにしています。このように、メタアナリシスを集めてみえてくる全体像から「正しい食」の答えを求めることをメタ栄養学と呼びます。
大胆にいってしまうと、メタ栄養学を知ることで、今日から食と健康の科学に関するエキスパートになれるのです。
さらに、「食と疾患予防のメタアナリシスは全部で608報ある」(2014年末時点)ということも、メタ栄養学がもつ非常に大きな力です。なぜならこれは、食品の健康効果(病気の予防)については、608報のメタアナリシス以外は「科学的にまだはっきりしていない」ということを意味しているからです。
つまり、あなたが現在病気でないなら、当協会で紹介しているメタアナリシス以外のあらゆる食と健康の情報は、すべて「よくわかっていないもの」と断じてしまってよいということなのです。これにより、世の中にあふれる雑多な健康情報の真偽をはっきり見分けることができます。
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[i] 丹後俊郎「メタ・アナリシス入門」より。当該論文はYusuf et al. (1985)。