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肉・タンパク質のメタアナリシス

第1項  肉

肉のメタアナリシス(「食と健康」の最重要の論文)の結果をメタ・チャートで見ると、赤色が多いことがわかります。これはつまり、肉を多くとる人は、多くの病気になるリスクが高いことを意味します。

 

肉とがんについて

結果のうち、おそらく最も目を引くのが「肉とがん」の関係でしょう。がんとは遺伝子の異常が積み重なることでふつうの細胞が悪性の細胞となっていき、そのがん細胞が増殖しつづけ、体をむしばみ破壊するという恐ろしい病気です。

がんの恐ろしさとは、それが発生する場所(大腸や肺や胃など)よりも、「悪性化する」ということ自体にあります。「悪性になる」とは、一言でいうとがんが体内のほかの場所に転移することです。多くの場合、転移が確認されると末期とみなされます。したがって、いかにしてがんが転移する前に抑え、取りのぞくことができるかが治療における勝負となります。がんは早期発見が大事だといわれる理由です。

しかし当然ながら、がんになってから治療に懸命になるよりも、がんにならないようにするという予防の努力のほうがずっと大事なことです。毎日の食事ががんとどのように関係しているかを教えてくれるのが、これまでに発表されているメタアナリシスです。

がんに関するメタアナリシスは論文数が特に多いため、ここでは大腸がん、前立腺がん、乳がん、そしてそれ以外のがんの4つの区分にわけて紹介します。それでは、まずは「肉と大腸がん」の関係について紹介します。

 

1-1項 肉・タンパク質と大腸がん

肉の表をみると、ほとんどの論文で判定結果が「+」となっていることから、肉を多くとる人は大腸がんになりやすいことがよくわかります。この表のうちで注目すべきは一番上の論文です。日本人を対象にしたこの論文では、4つのコホート研究を統合し、26万人ぶんのデータを分析した結果、赤肉を多くとる人は大腸がんになるリスクが20%高いことが示されています。コホート研究とは、疫学研究のうち、通常10年前後、長いものでは20年、30年と長期にわたって調べた研究です。より精度の高い結果が得られます。

肉の表の下側のタンパク質の表をみると、ヘムのように赤肉に含まれる成分を多くとる人(つまり赤肉を多くとる人)は大腸がんになりやすいという結果となっています。しかし、メチオニンや動物性タンパク質のように、赤肉以外の食品にも含まれる成分の場合は、赤肉の場合とは異なる研究結果となっています。

表1-1 肉・タンパク質と大腸がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 肉
赤肉※1 結腸直腸がん(日本人) + 2014 24842864
赤肉 結腸直腸がん + 2013 23563998
白肉(魚、鶏肉) 結腸直腸腺腫 0 2013 23375344
赤肉、加工肉※2 結腸直腸がん + 2011 21674008
赤肉 結腸直腸がん + 2011 21540747
加工肉 結腸直腸がん + 2010 20495462
赤肉、加工肉 結腸直腸がん + + 2006 16991129
赤肉、加工肉 結腸直腸がん + + 2002 11857415
赤肉 結腸直腸がん + 2001 11352852
加工肉 結腸直腸がん + + 2001 11352852
■ タンパク質
メチオニン※3 結腸がん – – 2014 24340103
ヘム※4 結腸直腸がん + 2014 24243555
ヘム 結腸直腸がん + 2013 23568532
ヘム 結腸直腸がん + 2011 21209396
動物性タンパク質※5 結腸直腸がん ? 2009 19261724

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         赤肉とは主に牛肉のことで、馬肉や羊肉も含まれます。
※2         加工肉とはハムやソーセージなどの加工された肉製品です。
※3         メチオニンとはアミノ酸の一種であり、タンパク質の成分です。肉だけでなく魚や豆類、乳製品にも豊富に含まれています。
※4         ヘムは赤血球や筋肉に含まれる重要な成分であり、赤肉に多く含まれています。ヘムは正確にはタンパク質ではありませんが、ここではタンパク質の仲間として扱います。
※5         赤肉のように大腸がんのリスクが高いという結果とならなかったのは、動物性タンパク質を多くとる人が、必ずしも赤肉ばかりを食べていないことが理由だと考えられます。動物性タンパク質を含む食品には赤肉以外にも鶏肉やたまご、牛乳、魚などがあり、これらは比較的よい食品です(詳しくは書籍版 第7項と第8項を参照)。

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1-2項 肉と前立腺がん

表をみると、前立腺がんに対しては、肉の影響はあまりないようです。

表1-2 肉と前立腺がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
赤肉※1 前立腺がん 0 2010 21044319
加工肉※1 前立腺がん ?+ 2010 21044319

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         赤肉とは主に牛肉のことです。加工肉とはハムやソーセージなどの肉製品です。

 

1-3項 肉・タンパク質と乳がん

肉の表を全体的にみると、肉によって乳がんになるリスクが増加するという結果が目立ちます。最も新しい2011年の論文でも疾患リスクは「+」であることから、やはり肉を多くとることで乳がんになりやすいのは確かでしょう。

タンパク質の表をみると、タンパク質の成分であるメチオニンを多くとる人は乳がんになるリスクが低いという結果があります。これは、肉以外の食品が影響していると考えられます。メチオニンは肉以外にも魚や豆類、乳製品にも豊富に含まれており、大豆や牛乳には乳がんの予防効果があることがわかっています(2ー3項と8-3項を参照。第8項は書籍版をご覧ください)。

表1-3 肉・タンパク質と乳がんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 肉
赤肉、加工肉※1 乳がん + 2011 21110906
赤肉 乳がん ? 2009 19543971
肉(赤肉、豚肉、鶏肉) 乳がん + + 2003 14583769
肉類全般(鶏肉、魚を含む) 乳がん 0 2002 11914299
肉(赤肉、豚肉、鶏肉) 乳がん + + 1993 8353053
■ タンパク質
メチオニン※2 乳がん 2013 23907430

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         赤肉とは主に牛肉のことです。加工肉とはハムやソーセージなどの肉製品です。
※2         メチオニンとはアミノ酸の一種であり、タンパク質の成分です。肉だけでなく魚や豆類、乳製品にも豊富に含まれています。

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1-4項 肉・タンパク質とその他のがん

肉の表をみると、疾患リスクの多くが「+」となっていることから、肉を多くとる人はがんになりやすいことがわかります。なかには妊娠中に加工肉を多くとる場合、生まれた子が脳腫瘍になりやすいという論文もあります。しかし、肉はすべて悪いとはいえず、鶏肉などはむしろがんの予防効果がみられるという結果もあります。

データの規模が大きな論文として、赤肉と食道がんについて調べた2013年の論文(ID: 23467465)を紹介します。この論文では、4つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、115万人ぶんのデータを分析した結果、赤肉を多くとる人は食道がんになるリスクが26%高いことが示されています。これはデータの規模が大きな論文であり、結果の信頼性は高いといえます。

一方、タンパク質の表をみると、肉のように「+」の結果はみられません。タンパク質を肉ではなく大豆からとる場合は、肉のように肺がんのリスクが増加することはないという結果となっています。

表1-4 肉・タンパク質とその他のがんのメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 肉
赤肉 胃がん ? 2014 24682372
鶏肉 肝細胞がん – – 2014 24588342
赤肉、加工肉※1 食道がん + 2014 24395380
豚肉、鶏肉 食道がん 2014 24395380
赤肉、加工肉 食道扁平上皮がん + + 2013 24176821
加工肉 胃がん + 2013 23967140
赤肉、加工肉 食道がん + 2013 23590703
赤肉 食道がん + + 2013 23467465
赤肉、加工肉 食道腺がん ? 2013 23179661
肉(赤肉、加工肉、鶏肉、魚) 肺がん + + 2012 22855553
加工肉(50g/日) すい臓がん + 2012 22240790
赤肉、加工肉 胆のうがん + 2012 21607770
赤肉、加工肉 卵巣がん ?+ 2011 21343939
加工肉 卵巣がん + + 2010 20392889
赤肉 (牛肉、豚肉、レバー) 腎臓がん 0 2009 19303221
加工肉 腎臓がん + 2009 19303221
肉(赤肉、鶏肉、加工肉) 腎臓がん + 2007 17242980
赤肉 子宮体がん + + 2007 17638104
加工肉(30g/日) 胃がん + 2006 16882945
妊娠中の加工肉 子の脳腫瘍 + + 2004 14739572
加工肉 脳腫瘍 + 2003 14533876
■ タンパク質
大豆タンパク質 肺がん 0 2013 23859029
総タンパク質 腎細胞がん ?+ 2008 19033572

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         赤肉とは主に牛肉のことです。加工肉とはハムやソーセージなどの肉製品です。

 

1-5項 肉と心臓疾患

表をみると、加工肉をとる人は心臓疾患になりやすいという論文が1報あります。4つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、60万人ぶんのデータを分析した結果、加工肉を1日50gとる人は心臓疾患になるリスクが42%も高いことが示されています。

タンパク質の表には、ヘムについて調べた論文が2報あります。ヘムとは正確にはタンパク質ではありませんが、赤血球や筋肉に含まれる重要な成分であり、赤肉に多く含まれています。つまりこれら2報の論文の結果からは、赤肉を多くとることで心臓疾患になりやすくなることが考えられます。

表1-5 肉・タンパク質と心臓疾患のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 肉
加工肉(50g/日)※1 心臓血管疾患 + + 2013 23001745
■ タンパク質
ヘム※2 冠動脈性心疾患 + + + 2014 24401818
ヘム 冠動脈性心疾患 + + 2014 23708150

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         加工肉とはハムやソーセージなどの肉製品です。
※2         ヘムは赤血球や筋肉に含まれる重要な成分であり、赤肉に多く含まれています。ヘムは正確にはタンパク質ではありませんが、ここではタンパク質の仲間として扱います。

 

1-6項 肉と脳卒中

肉の表をみると、肉を多くとる人は脳卒中になりやすいことがわかります。その一方で、タンパク質について調べた論文では、タンパク質をよくとるほうが脳卒中の予防になるという結果となっています。タンパク質は肉のほか、豆類、穀物にも多く含まれています。タンパク源として肉以外の食品にも注目するのがよいでしょう(Q&A「タンパク質をとるためには肉も必要では?」を参照)。

表1-6 肉・タンパク質と脳卒中のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 肉
赤肉、加工肉※1 脳卒中 + 2013 23169473
赤肉、加工肉(1サービング※2/日) 脳卒中 + 2012 22851546
■ タンパク質
タンパク質 脳卒中 – – 2014 24920855

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         赤肉とは主に牛肉のことです。加工肉とはハムやソーセージなどの肉製品です。
※2         サービングとは、アメリカでよく使われている、1回に食べる量の目安です。赤肉の1サービングとは100g~120gであり、加工肉の1サービングはおよそ50gです。

 

1-7項 肉・タンパク質と糖尿病

表をみると、肉を多くとる人は糖尿病になりやすいことがわかります。その影響は、赤肉よりも加工肉で顕著です。

表1-7 肉・タンパク質と糖尿病(2型)のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
■ 肉
赤肉 (100g/日)※1 糖尿病 + 2013 23001745
加工肉 (50g/日)※1 糖尿病 + + + 2013 23001745
赤肉 (100g/日) 糖尿病 + 2011 21831992
加工肉 (50g/日) 糖尿病 + + + 2011 21831992
■ タンパク質
ヘム※2 糖尿病 + + 2013 23046549

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         赤肉とは主に牛肉のことです。加工肉とはハムやソーセージなどの肉製品です。
※2         ヘムは赤血球や筋肉に含まれる重要な成分であり、赤肉に多く含まれています。ヘムは正確にはタンパク質ではありませんが、ここではタンパク質の仲間として扱います。

 

1-8項 タンパク質と骨折

表をみると、タンパク質を多くとることと骨折との関係は、なにもわかっていないのが現状だとわかります。

表1-8 タンパク質と骨折のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
総タンパク質、動物性タンパク質 股関節の骨折 ? 2009 19889822

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

 

1-9項 肉と死亡率

表をみると、肉を多くとる人は死亡率が高いことがわかります。表の論文のうち最も大きなデータを分析しているのは一番上の論文です。13のコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、167万人ぶんのデータを分析した結果、加工肉を多くとる人は死亡率が22%高いことが示されています。また、肉について調べた2013年の論文では、7つのコホート研究を統合し、70万人ぶんのデータを分析した結果、肉(主に赤肉)を多くとる人は死亡率が17%高いことが示されています。どちらも統合しているデータの規模は大きいため信頼性のある結果です。なお論文をくわしくみると、死亡原因として多いのは心臓疾患、脳卒中とがんでした。先の項でも、赤肉や加工肉によってこれらの疾患になりやすくなることが多くのメタアナリシスで示されていることを紹介しましたが、死亡率が高くなるのはこれらの疾患になりやすくなるためでしょう。

表1-9 肉と死亡率のメタアナリシス一覧

調査項目 対象疾患 疾患リスク 発表年 PubMed ID
加工肉※1 死亡率 + 2014 24932617
加工肉 死亡率 + 2014 24148709
肉(主に赤肉※1)、加工肉 死亡率 + 2013 23865702

説明リンク → (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明

※1         赤肉とは主に牛肉のことです。加工肉とはハムやソーセージなどの肉製品です。

 

1-10項 肉についての結論

以上のように、肉と疾患リスクについてのメタアナリシスの大部分は、肉を食べる人はがん、心臓疾患、脳卒中、そして糖尿病になるリスクが高いという結果を示していました。それ以外の疾患では、肉の影響についてはメタアナリシスがほとんど行われていないため、はっきりしたことはわかっていません。つまり、神経疾患やアレルギーなどに対し、肉がどのように影響するかについては科学的にわからないというのが現在の状況です。

しかし、肉によってこれほど多くの種類のがんになるリスクが高まり、またがんとは病理が異なる脳卒中や糖尿病までもリスクが高くなるのだから、その他の疾患においてもリスクが高くなってもおかしくないと思います。さらに、病気を発症する前段階を含めて考えると、肉によって考えられるQOL(生活の質)の低下は深刻な問題でしょう。

人はあるとき突然がんになるのではありません。多くの場合、体中の細胞や組織への酸化的ストレスや遺伝子の異常が積み重なるなどして体への負荷が蓄積し、それが時間をかけて体を侵食し、消耗させて元気を奪い、その結果として医師ががんと診断できるほどの異常が体に現れるというプロセスをたどるものです。

ならば、がんと診断されるというのは、体が長い間負荷にさらされた結果なのであって、その間の体の疲れ、だるさ、元気が出ない、はっきりしない体の不調なども、発症したがんに負けるとも劣らない苦しみであり、不幸なことでしょう。その意味で、現代の過剰な肉の消費は社会に深刻な影響を与えている可能性があります。それに対する特効薬ともいうべきものが野菜なのです。

 

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