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メタ栄養学の考え方・・・(1)情報に惑わされないために

人を惑わせる“健康情報”の大波

②のページで、「世の中の健康情報には誤りがとても多い」ことを述べましたが、その理由として次の3つがあります。

  • そもそも食品のもつ健康効果が科学的によくわかっていない
  • 科学的によくわかっていないということが、医療従事者をはじめ一般的に知られていない
  • 食べものと健康の関係について、枝葉末節のことばかりが取りあげられ、全体的な観点での情報が不足しているため、人々は雑多な情報に惑わされてしまっている

意外に思うかもしれませんが、これだけ科学の発達した文明社会にあってもなお、生命のことについてはまだまだ多くのことがわかっていません。端的にいえば、人類の科学力はメダカ一匹、いや生きた細胞一個すら実験室で作り出すことができないのです。

再生医療で話題となっているiPS細胞でも、もともとある生きた細胞に手を加えることで作るものであり、生命のいない試験管の中でiPS細胞を生み出すものではありません。この世のすべての生物は、細胞からしか生まれることができません。細胞なくして人が生物を作り出すことなどできないのです。

confuse 200x242人間の健康についても、まだまだわからないことが多くあります。「牛乳は体によいのか悪いのか」という議論をメディアでみかけることがありますが、どちらの主張も正しくみえるため、結局どちらが本当なのかがわからない。そんな経験はありませんか。

実のところ、この問題は牛乳だけではなく多くの食品や栄養についてもそうなのです。そしてその「わかってない」ということが、健康のプロフェッショナルである医療従事者だけでなく、一般的にも十分理解されているとはいえません。それが原因となって、三点目にあげた、雑多な情報に惑わされる状況が生まれているのです。

私たちはどのように惑わされるかを知るために、例としてニュース記事の見出しをいくつかみてみましょう。

  • 美肌やアレルギーに、ニンジンの健康効果(日経ウーマンオンライン 2011/8/25)
  • タマネギエキスに血管内皮機能の改善効果(日経ヘルスオンライン 2012/7/30)
  • トマトジュース売れすぎ…脂肪燃焼効果の論文で(読売新聞 2012/2/15)
  • イチゴに花粉症抑える効果…7日以上食べれば(読売新聞 2012/6/23)
  • 青汁に脳機能低下防止、老化抑制効果 信大(信濃毎日新聞 2012/12/26)

このように野菜讃嘆の見出しが躍ると思いきや、

  • 食物繊維「とにかくとる」は健康効果乏しく(日本経済新聞 2012/12/29)
  • 頭痛の原因はアルコールだけではない バナナや味噌汁にもご注意あれ(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 2012/12/18)

などと、野菜や果物でも注意が必要だなんていわれ、さらに、

  • 調子が悪いときに「チキンスープを飲む」と元気になる理由(マイナビニュース 2013/01/07)
  • コラーゲン、豆腐やハムにも お肌プルプル効果は(朝日新聞 2009/8/27)
  • (肉類や魚、乳製品などのトリプトファンは)美肌効果も抜群!質のよい睡眠を取るための食事方法(マイナビニュース 2012/12/14)

といって肉などの効果がうたわれます。さらに、あげくの果ては、

  • 冷えに効果的なのは実は「ショウガよりもココア」と判明(マイナビニュース 2012/12/17)
  • 実はおせち料理「栗きんとん」を食べると老化予防できる(マイナビニュース 2013/01/01)
  • 乳酸菌に睡眠障害改善効果、サッポロが研究発表(日本経済新聞 2012/7/24)
  • 1日に4杯のコーヒーで「うつリスク」下がることが明らかに(マイナビニュース 2012/10/30)
  • ビール:筋肉萎縮を抑える効果 寝たきり防止に期待(毎日新聞 2012/9/20)

と、ビールでも栗きんとんでも健康にいいときては、もはやなんでもありという感じです。結果的に人の印象に残るのは、「ようするに、いろんなものにいろんな効果があったり、なかったりするのか」程度のことです。それではなんの意味もありません。

また、たとえ一つの記事に感心して、一時期その食品を積極的に食べることはあっても、何年も続けることは少ないでしょう。さらに、効果が十分に感じられなければ、なおさらその習慣は続くことはありません。そして、たとえ特定の効果があったとしてもそれにより栄養が偏ることになってしまえば、トータルでの効果、つまり「元気で健康になる」ことが得られなくなり、そもそも続けることの意義さえなくなってしまいます。

このように、個別の健康情報というものは、センセーショナルな文句で注目されることはあっても、全体的な観点で人の健康に役立つかといえば、それは大いに疑問なのです。むしろ人を惑わし迷わせるばかりです。私たちは現代の情報過多の中で、こうした不確かな“健康情報”の大波に飲みこまれ、惑わされ、ほんろうされているのです。

 

「全体観でみた食品の健康効果」を知ることが大事

どんな食品にも健康効果があるというのは、実は考えてみれば当然のことです。食品であるかぎり人が生存するための役に立つのはあたりまえなのですから。食品を単品でみて効果があるかどうかをいうのであれば、たとえばコップ一杯の水や角砂糖であっても非常時には命の源といえるほどに絶大な健康効果があるわけです。

では、結局なにを食べればよいのかと人に問うと、「やっぱりバランスよく食べることでしょう」という、もっともな答えが返ってきます。しかしこの「バランスよく」という言葉にこそ私たちの惑いが凝縮されています。バランスよく食べなさいといわれても、そもそもなにがよいバランスなのかがはっきりしないからです。

1日3食で2kgほどのものを食べる私たちは、ニュースの見出しでニンジンがよいからといって、ニンジンだけを2kg食べるわけにはいきません。ニンジンを多く食べるなら他の物を減らすしかありません。「バランスよく」の意味とは、「なにを減らしてなにを増やすかが正しく判断でき、結果として健康になる」ということです。

つまり「全体観でみた食品の健康効果」を知ることこそが、正しいバランスを知ることなのです。ニュースの見出しは「へぇ、そうなんだ」という感心は与えられても、正しい判断基準を与えたことにはならないのです。

 

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