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メタ栄養学の考え方・・・(2)疫学研究の論文が重要

研究論文を根拠にすべき

正しい判断基準を得るために、よりどころにすべきは客観的な事実です。つまり科学的な情報です。ここで注意すべきなのは、科学的な情報とは必ずしも科学の専門家が話すことではないということです。科学者の話なら科学的だと思いがちですが、多くの人が思うよりもずっと、科学者というのは主観的なのです。

科学的な情報として、現在最も信頼できるのは研究論文です。実験や調査を行い、国際的に名のある医学雑誌で発表された論文は、世界中の研究者の批判的な目にさらされることになります。研究論文とはいえ、研究者によりデータがねつ造されることもあり、100%信頼できるとはいえませんが、情報を印刷物という形にし、それが他者によって確認でき、他者からの批判にさらされる研究論文は、非常に客観的な情報です。したがって、真実により近い情報だといえるのです。

仏教には「依法不依人(えほうふえにん)」という考え方があります。「法に依(よ)って人に依(よ)らざれ」と読み、正邪を見分ける方法の一つです。その意味は、ものの正邪を見分けるには客観的で普遍的な法則にのっとるべきであり、人のいうことにのっとるべきではない、ということです。物事の正しさや誤りとは、人生の幸不幸に大きく影響するものであるため、正邪を見極めることは重要なのです。

「食と健康」についての真実を知るためには、メディアや学者のいうことを真に受けるのではなく、客観的に法則を追求した研究論文に基づくべきなのです。

 

「食と健康」の確かな根拠を求めて ~疫学研究の重要さ~

先にあげたニュースの見出しをたどると、確かに元の情報の一つ一つは研究論文です。しかし、新聞記者をはじめほとんどの人が見落としているのが、研究論文の序列です。論文のデータであればすべて客観的であり、すなわち真理だというのは早計です。一般的に、医学研究は次のような種類にわけることができます。

1.分子や細胞を使った実験

2.動物を使った実験

3.人を使った実験

4.人の生活を調査したもの(疫学研究)

pyramid2-300x265おおまかにいうと、1から4の順でだんだん規模が大きくなり、お金もかかりますが、そのぶん健康についての確かな情報を与えてくれるものです。本来、それぞれの種類の研究に大事な意味があり、優劣をつけられるものではありませんが、多くの情報で混乱する現代にあっては、私たちがより必要とする情報とそうでない情報の区別をつけなければなりません。その重要性からいうと、食と健康に関しては1から4の順で、4が最も重要となります。

1はなぜ劣るかというと、これは分子や細胞のうち、ある特定のもののみから得た結果だからです。その細胞には効果的だとしても、その他の細胞には効果がなかったり、あるいは有害であったりすることがあります。つまり体の一部分における効果と、体全体での効果は必ずしも一致しないのです。

それを克服するために2のような動物実験を行います。生物の体全体への効果をみるうえで非常に有効ですが、これはあくまで動物での話です。大事な情報は得られるものの、残念ながら人においても動物と同じ結果が得られるかはわかりません。

そこで大事になるのが、3の人を対象にした研究です。「人を使った実験」という表現に驚く人もいるかもしれませんが、これは臨床研究や臨床試験という呼び方で一般的に行われています。たとえば効果が証明されていない薬を人に与えて、効果が出るかどうかを一定の期間、医療施設で観察するものです。もちろん安全性や人権への配慮には細心の注意がはらわれます。

この方法は、薬の治療効果をみる場合や短期間での食品の効果をみるのには適していますが、食べものによる病気の予防効果をみることはできません。なぜなら病気になるまでの何年もの間、人を施設に入れて特定の食品を与えつづけ、病気になるかならないかを調べることなど倫理的にできないからです。たとえば、肉を多く食べると大腸がんになりやすいかを知りたいといって、施設で多くの人を長年も肉ばかり食べさせ、野菜を食べる人とがんの発生率を比較するなんてできないのです。(ただし、サプリの効果をみる研究などでは、臨床試験はしばしば行われています。)

note1このとき最も重要となるのが4番目の「人の生活を調査したもの」となります。なぜなら、ふつうに暮らす人の生活を調査したものであれば、個々の生活や選択が尊重され、人の自由を制限することなく、生活習慣と病気の発生との関係を調べることができるからです。

これが食と健康を調べた疫学研究と呼ばれるものです。特にコホート研究という種類の疫学研究では、規模の大きいものだと数十万人もの健康な人々の食生活を何年もかけて調査するため、労力も費用もかかりますが精度の高い結果が得られます。

このように、食と健康、特に食べものと疾患の予防について知るにはいろいろな医学研究の中でも疫学研究が大事であり、特にコホート研究が最も大事なのです。にもかかわらず、ニュース等のメディアはネズミや昆虫の実験結果が発表されるたびに、あたかも普遍的な真理が発見されたかのようにセンセーショナルな報道をします。その結果、多くの人が惑わされることとなるのです。

新聞記事などの話題で、「この食品は△△の予防に効果的らしいよ」と聞いたときは、「それって疫学研究の結果?コホート研究の結果なの?」といってあげてください。嫌な顔をされるかもしれませんが(笑)、それほど、食と疾患の予防について知るためには疫学研究が大事なのです。

 

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