第6項 穀物、炭水化物、糖
炭水化物とは、タンパク質、脂質とともに、三大栄養素の一つです。炭水化物は体内で消化されて糖に分解されます。糖は小腸から吸収されて血流にのり、体のすみずみの細胞に運ばれてとりこまれ、細胞のエネルギー源になるほか、細胞を正しく機能させるために働きます。私たちはこれらの炭水化物をとらなければ生きていけませんが、現代の日本における問題は、精製された穀物である精白米、精製小麦、精白糖を多くとることによる健康への悪影響です。そのことを明確に示しているのが穀物、炭水化物、そして糖に関するメタアナリシスです。
ここで、穀物と炭水化物と糖のちがいを確認しましょう。一言で説明すると、次のようになります。
穀物・・・・・炭水化物を多く含む米、小麦、トウモロコシなど、主食となる食品
炭水化物・・・たくさんの糖が鎖状に結合したもの
糖・・・・・・生物の最も基本的なエネルギー源
肉も、これとよく似た分類ができるので、参考として紹介します。あわせて理解することでわかりやすくなるでしょう。
肉・・・・・・・タンパク質を多く含む、動物の可食部
タンパク質・・・たくさんのアミノ酸が鎖状に結合したもので、精妙な機能をもつ
アミノ酸・・・・生物の最も基本的な構成材料
グリセミック指数(GI)とグリセミック負荷(GL)
この項のメタアナリシスには、GIとGLという言葉がよくでてきます。GIとは、グリセミック指数(Glycemic Index)といって、血糖値を上げる効果が最も強いブドウ糖(グルコース)を100として、さまざまな食品がもつ血糖値を上げる力を数値化したものです。数値が100に近いほど食後の血糖値を上げる力が強いことになります。このあと紹介するメタアナリシスでわかりますが、GI値が高い食品をとるほどがんや心臓疾患、糖尿病などになりやすくなります。
表Hには具体的な食品のGI値を挙げてみました[i]。糖質が多く繊維が少ない食品ほど高GI食品であり、逆に繊維が多くなるほどGI値が低くなっていく傾向があります。なおインターネットで検索すると、食品のGI値はウェブサイトによってばらつきがあるため混乱しやすいので、正確な数値にはこだわらずおおまかな傾向を理解するにとどめておくことをおすすめします。
※高・中・低という分類は著者による独自のものです。
この表をみると、りんごやみかんが低GI食品となっています。果物は甘くて糖質が多いのになぜGI値は低いのかと疑問に思う人もいるかもしれませんが、そ の理由は果物の糖質の多くは果糖(フルクトース)だからです。果糖はブドウ糖とちがって血糖値を上げる力が弱く、GI値は20程度ととても低いため、体に やさしい糖だといえます。
GIとともによく登場するGLとは、グリセミック負荷(Glycemic Load)といって、血糖値を上げる食品をどれだけとったかを表わすものです。たとえばGI値が中程度であっても、それを多く食べる食事は血糖値を上げる力が強いものとなります。そのような食事がGL値の高い食事ということになります。一言でいうと、GL値が高い食事とは炭水化物を多くとる食事のことです。
メタアナリシスの結果をみると、GIとGLのどちらも病気になるリスクを増加させます。つまり、糖質が多く繊維の少ない食品(高GI食品)をとること、そして炭水化物を多くとる食事(高GLの食事)によって、多くの疾患になりやすいことが示されています。それでは、メタアナリシスの結果を具体的にみてみましょう。
6-1項 炭水化物と大腸がん
表をみると、炭水化物によって大腸がんになりやすくなることは、ほぼないことがわかります。またコーラなどの糖を多く加えた飲料について調べた論文でも、大腸がんへの影響はないことがわかります。
糖に関するこの論文では、13のコホート研究を統合し、73万人ぶんのデータを分析した結果、加糖炭酸飲料を1日350ml飲むことで結腸がんのリスクが上がることはないことが示されています。コホート研究とは、疫学研究のうち、通常10年前後、長いものでは20年、30年と長期にわたって調べた研究です。より精度の高い結果が得られます。
表6-1 炭水化物・糖と大腸がんのメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
■ 炭水化物※1 | ||||
高GI食品 | 結腸直腸がん | ?+ | 2012 | 22418776 |
高GLの食事 | 結腸直腸がん | 0 | 2012 | 22418776 |
高GI食品 | 結腸直腸がん | 0 | 2009 | 19088152 |
■ 糖 | ||||
加糖飲料(炭酸)(350ml/日) | 結腸がん | 0 | 2010 | 20453203 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
※1 簡単にいうと、高GI食品とは糖分の高い食品であり、高GLの食事とは炭水化物を多くとる食事です。詳しくはこちら。
6-2項 炭水化物と乳がん
表をみると、糖分の高い食品(高GI食品)をとる人は乳がんになりやすいとの結果となっています。
この表のうち最も大きなデータを分析しているのは2011年の論文です。10のコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、58万人ぶんのデータを分析した結果、高GI食品を多くとる人は乳がんになるリスクが8%高いことが示されています。
表6-2 炭水化物と乳がんのメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
高GI食品 | 乳がん | + | 2011 | 21221764 |
高GLの食事 | 乳がん | 0 | 2011 | 21221764 |
高GI食品 | 乳がん | + | 2008 | 18326601 |
高GI食品 | 乳がん | ?+ | 2008 | 18728653 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
※1 簡単にいうと、高GI食品とは糖分の高い食品であり、高GLの食事とは炭水化物を多くとる食事です。詳しくはこちら。
6-3項 炭水化物とその他のがん
表をみると、炭水化物や糖を多くとる人はがんになりやすいという結果となっています。
この表のうち最も大きなデータを分析しているのは、果糖について調べた2012年の論文です。7つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、116万人分のデータを分析したところ、果糖を多くとる人はすい臓がんになるリスクが18%高いことが示されています。
この項の冒頭で表Hの説明をしたとき、果糖はGI値が低く体にやさしい糖だといったのになぜ果糖によってすい臓がんになるリスクが高いのかと疑問に思うかもしれませんが、この論文の著者は近年の食環境の変化が原因かもしれないと考えています。著者によると、アメリカではこの20年で炭酸飲料などに使われる甘味料の大部分がこれまでのショ糖(砂糖)から果糖に変わり、その結果として多量の果糖を摂取するようになったとのことです。また、炭酸飲料だけでなく果物のジュースからとる果糖も原因の一つかもしれないといっています。
表6-3 炭水化物とその他のがんのメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
■ 炭水化物※1 | ||||
高GLの食事 | 子宮体がん | + | 2013 | 22648201 |
高GI食品 | すい臓がん | 0 | 2012 | 22539563 |
高GLの食事 | 子宮体がん | + | 2008 | 18665189 |
高GI食品、高GLの食事 | 子宮体がん | + | 2008 | 18541570 |
■ 糖 | ||||
果糖 | すい臓がん | + | 2012 | 22539563 |
加糖飲料 | すい臓がん | ? | 2011 | 20981481 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
※1 簡単にいうと、高GI食品とは糖分の高い食品であり、高GLの食事とは炭水化物を多くとる食事です。詳しくはこちら。
6-4項 炭水化物・糖と心臓疾患
表をみると、糖分の高い食品(高GI食品)をとる人や、炭水化物の多い食事(高GLの食事)をとる人は心臓疾患になりやすいことがわかります。また、糖を多く加えた飲料によっても、心臓疾患になるリスクが高くなることが示されています。
表6-4 炭水化物・糖と心臓疾患のメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
■ 炭水化物※1 | ||||
高GLの食事 | 冠動脈性心疾患 | + + | 2013 | 23316283 |
高GI食品、高GLの食事 | 心臓血管疾患 | + | 2012 | 22727193 |
高GI食品、高GLの食事 | 冠動脈性心疾患 | + | 2012 | 22440121 |
高GI食品 | 冠動脈性心疾患 | + + | 2008 | 18326601 |
■ 糖 | ||||
加糖飲料 | 冠動脈性心疾患 | + | 2014 | 24583500 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
※1 簡単にいうと、高GI食品とは糖分の高い食品であり、高GLの食事とは炭水化物を多くとる食事です。詳しくはこちら。
6-5項 穀物・炭水化物・糖と糖尿病
炭水化物の表をみると、糖分の高い食品をとる人や炭水化物の多い食事をする人は糖尿病になりやすいことがわかります。一方、表の一番上の論文では全粒穀物によって逆に糖尿病になりにくくなるという結果でした。日本で最も一般的な全粒穀物は玄米です。その他、全粒粉で作られたパンや全粒穀物のシリアルなどがあります。なお最近、お店で全粒粉入りのパンをみかけますが、全粒粉の入っている割合が低い場合は予防効果はあまり期待できません。
表の上から二番目と三番目の論文では、白米食に関する興味深い結果が示されています。この論文では対象者をアジア人(中国人と日本人)と欧米人にわけて分析を行いました。7つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、35万人ぶんのデータを分析した結果、アジア人のうち白米を多く食べる人は糖尿病になるリスクが55%高いのに対して、欧米人の場合はリスクの増加はみられませんでした。これはアジア人と欧米人では米を食べる量が大きく異なっているからです。1人あたりの年間の消費量は、中国が80kg、日本が60kgなのに対して、アメリカは10kg、欧州では5kgです[ii]。そのため、白米を食べることによる糖尿病リスクの増加がアジアで顕著なのは当然といえます。白米のようにGI値が高い食品には注意が必要でしょう。
糖についての表をみると、加糖飲料について調べた論文が2報あります。加糖飲料とは糖を多く加えた炭酸飲料などのことです。たとえば350mlのコーラ1缶に含まれる糖は、重さにして角砂糖10個ぶんだという話は有名です。これほど多くの糖をとってはたして大丈夫なのだろうか、という疑問に答えるのがこの論文の研究結果です。2014年の論文では、11のコホート研究を統合した結果、加糖飲料を多くとる人は糖尿病になるリスクが20%高いことが示されています。さらにこの論文では、人工甘味料を添加した飲料についても調べています。その結果、人工甘味料添加飲料をとる人は糖尿病になるリスクが13%高いことが示されています。ただ、このような飲料が直接糖尿病を引き起こす原因となるというよりも、このような飲料を好む人の食生活や生活習慣自体が糖尿病の原因となっている可能性があります。
表6-5 炭水化物と糖尿病(2型)のメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
■ 穀物 | ||||
全粒穀物(90g/日) | 糖尿病 | – – | 2013 | 24158434 |
アジア人の白米食 | 糖尿病 | + + + | 2012 | 22422870 |
欧米人の白米食 | 糖尿病 | ? | 2012 | 22422870 |
■ 炭水化物※1 | ||||
高GI食品 | 糖尿病 | + | 2013 | 24265366 |
炭水化物 | 糖尿病 | + | 2013 | 23378452 |
GL(100g/日) | 糖尿病 | + + | 2013 | 23364021 |
高GI食品、高GLの食事 | 糖尿病 | + | 2012 | 22017823 |
高GI食品、高GLの食事 | 糖尿病 | + + | 2008 | 18326601 |
■ 糖 | ||||
加糖飲料 | 糖尿病 | + | 2014 | 24932880 |
人工甘味料添加飲料 | 糖尿病 | + | 2014 | 24932880 |
加糖飲料 | 糖尿病 | + + | 2010 | 20693348 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
※1 簡単にいうと、高GI食品とは糖分の高い食品であり、高GLの食事とは炭水化物を多くとる食事です。詳しくはこちら。
6-6項 糖とメタボ
表をみると、コーラなどの加糖飲料をとる人はメタボや肥満になりやすいことがわかります。特に小児の肥満への影響は大きいようです。2013年の論文では、5つのコホート研究(高精度の疫学研究)を統合し、1万2千人ぶんの小児のデータを分析した結果、加糖飲料を1日に1缶(350ml)以上とる人は肥満になるリスクが55%高いことが示されています。
表6-6 糖とメタボのメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
加糖飲料 | 小児の肥満 | + + + | 2013 | 23321486 |
加糖飲料 | メタボ | + | 2010 | 20693348 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
6-7項 糖とアレルギー疾患
2013年の論文は、アレルギー性の皮膚炎(アトピー性皮膚炎を含む)を対象としたものです。健康な赤ちゃんにオリゴ糖を与えることで、その子供が2歳くらいになるまでにアレルギー性皮膚炎の発症を予防できるかどうかを調べています。この論文では、4つの臨床試験を統合し、1,400人ぶんの乳児のデータを分析した結果、乳児にオリゴ糖を与えることでその子たちがアレルギー性皮膚炎を発症するリスクが32%減少することが示されています。
オリゴ糖は、善玉の腸内細菌のえさとなることで腸内の善玉菌が増えるのを助け、そして腸内環境がよくなることで、体によい影響がおよぶというものです。こうした考え方の食品をプレバイオティクスと呼びます。この論文では乳児にオリゴ糖を与えていますが、それが腸内環境を調えることで子供の免疫が正しく発達するのを助けているのかもしれません。
表6-7 糖とアレルギー疾患のメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
オリゴ糖(プレバイオティクス) | アレルギー性皮膚炎 | – – | 2013 | 23543544 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
6-8項 糖と目の疾患
表の論文では、7つの疫学研究を統合し、1万人ぶんのデータを分析した結果、炭水化物を多くとる人や糖分の高い食品(高GI食品)をとる人は白内障になるリスクが高いことが示されています。ただ、分析したデータの規模は大きくないため、結果は今後変わる可能性があります。
表6-8 糖と目の疾患のメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
炭水化物、高GI食品 | 加齢性白内障 | + | 2014 | 24833741 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
6-9項 糖と感染症
キシリトールといえば、虫歯にならない甘味料としてガムなどに使われていますが、中耳炎の予防についても研究されており、2報の論文が発表されています。発表年の新しい2011年の論文では、3つの臨床試験を統合し、児童2千人ぶんのデータを分析した結果、キシリトールをとることで中耳炎になるリスクが25%減少することが示されています。しかし、どちらの論文もデータの規模は小さいため、はっきりした結果を得るためにはさらなる研究結果を待つ必要があります。
表6-9 糖と感染症のメタアナリシス一覧
調査項目 | 対象疾患 | 疾患リスク | 発表年 | PubMed ID |
キシリトール | 中耳炎 | – – | 2011 | 22071833 |
キシリトール | 中耳炎 | – – | 2010 | 20874048 |
説明リンク → (炭水化物の説明) (メタアナリシスとは) (疾患リスクの見方) (疾患の説明)
6-10項 炭水化物の結論
以上のように、炭水化物や糖を多くとることによって、さまざまな疾患のリスクが増加することがわかります。炭水化物によって特にリスクが高まるのが糖尿病です。白米を多く食べる人は糖尿病のリスクが55%も高いことが示されているほか、1日1~2缶の加糖飲料によってリスクが26%高くなるという論文もあります。また高GI食品や高GL食によっても糖尿病になりやすくなることが示されています。それに対して玄米などの全粒穀物では、糖尿病になるリスクが大きく減少することが示されています。白米や玄米は主食であり、他の食品とくらべて1日にとる量が多いため、糖尿病のリスクに与える影響は大きいと考えられます。
炭水化物によってリスクが増加する疾患は糖尿病のほか、乳がんなどのがん、そして心臓疾患があります。炭水化物を多くとることで、多くの病気になりやすくなると認識すべきでしょう。
「メタアナリシスの結果」トップへ
[i] ハーバード大学医学部サイトHarvard Health Publications「Glycemic index and glycemic load for 100+ foods」のうち代表的な食品を選び、分類しました。
[ii] 農林中金総合研究所「世界の米需給構造とその変化」より。